やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

国民民主党「部分連合」で迎える石破茂政権で思い切れなかったところ


 選挙後も、各種分析に使途する資料に接してあれこれ思い悩んでおります。

 これ、振り返るとやっぱり自由民主党総裁選でのボタンの掛け違いが大きかったと思うんですよ。

 国民人気や民意を取り入れるべきところと、全体や行く末を見て「それは違う」とプロとして思えるところは、仮に党員・党友の皆さんであったとしても意見を切り捨てることは考えたほうが良かったのではないかな、と。

「玉木雄一郎首相説」が爆誕する体たらくぶり…万事休すの石破茂首相を待ち受ける「最悪のシナリオ」 自民党が惨敗した理由は「政治とカネ」ではない

この政治日程で少数与党のまま通常国会に突っ込む俺たちの石破茂を助けて

 これはもう、単純に「国民からの人気・声望が高い石破茂を総理大臣に」という流れで言うならば、岸田文雄さんの総裁選不出馬決断、派閥政治の実質的崩壊で9名も総裁選に出馬し、道中で敗勢を見込んだ候補者を一回目投票で議員票ごと取り込むムーブもなく全員総裁選を完走した結果、議員票が9名に分散する一方で党員・党友票で人気のある石破茂さん高市早苗さんに票が集まってそのまま決選投票に、って流れです。

 道中には圧勝するかも、あるいは少なくとも決選投票には残ると思われた小泉進次郎さんの失速もありましたが、選挙の顔として早期の解散総選挙を行う役目を担う新総裁において、公示初日にヨーイドンで石破内閣支持率4割台って何だよって思うわけです。

 ずっと出口調査を見てましたが、主に「自民党支持者が立憲民主党や国民民主党に合計2割強も投票してしまっていること」と「石破茂支持率が高齢者に偏り、古い自民を体現しきっていたこと」、そして「地方創生予算倍増など地方からの票を稼ごうという作戦であったはずが、肝心の地方で自民党離れを起こしてしまい、むしろ東京など都市部で健闘したこと」などは、非常に気になったところです。

 選挙後のご祝儀相場もあるかもしれませんが、立憲や国民に投票した人はコミットしたことも含めて立憲や国民に対する支持率を底上げし、いわゆる「悪夢の民主党」の呪いを抜けてついに二大政党制へと本当に進化していけるのか、という状況にまでなってきました。ダブルで来るのはもちろん「政治とカネ」で政治資金報告書未記載議員を裏金議員と糾弾し、徹底的にこのテーマに絞って自民党政治を続けるんですかと言い続けた野田佳彦さんの戦術もあったかと思うんですが、ただこれは必ずしも立憲民主党自体への政党支持にはつながらず、あくまで「すでに長期低迷傾向にあった自民党支持率を削る効果となった」という話ではないのかと思うわけです。

 連れて爆死させられた公明党には申し訳ない気持ちでいっぱいでしたが、自民党の長期低迷傾向というのは地方統一選・衆参補欠選挙が執り行われた2023年すでに顕著になっていて、いわば「自民党を支持したり、自民党議員に投票する理由が有権者の中に見当たらない」という問題が最後まで解決されなかったというのが一番の課題でした。自民党に投票すれば、あなたの生活がこのように良くなるとか、日本をより良くしたり安全を守ったりするために自民党はこういう貢献ができているし、これからもしていくのだという話がどこまで有権者に意味のある言葉として言い続けられたのかは未知数です。

 また、あまり論点にはなりませんでしたが自民党支持者層の融解は、とりもなおさず地元での地方議員組織力の低下だけでなく、JC方面や各支持団体の影響力低減も色濃く出てきています。地方は特に、住民が離農して年金生活者になり地域有権者の一大勢力になっている一方、本来であれば票の取りまとめも含めて主体的に動いてくれる足腰のところが無くなって、むしろ投票率が上がるほうが組織票の摩耗した自民党にとっては有利な選挙区も少なくなくある、しかもそれは都市部山間部に限らない、というのもまた問題をややこしくしています。

 勤労者方面に振って、若者、勤労層、子育て世帯への政策を厚く持つことの大事さもさることながら、既存政党の政治の手垢に対する忌避感のようなものをどう乗り越えていくのかというのは政治への信頼回復の第一歩と言え、そこにおいては自民党だけでなく公明党も立憲民主党も日本共産党もいずれも「期待できない、信用に値しない既存政党」ということで支持層の高齢化に直面して徐々に衰亡していく恐れもありますから、そこはいま風のなにか新しい手立てをしっかりとやっていく必要があるのではないかなあ、と思わずにはいられません。

 最後に、TikTokやYouTubeなどネットメディアへの接触が大きい人が徐々に政治に風を起こしてきて、参政党やれいわ新選組、日本保守党のようなインディー政党にも一定の票数を与えるようになったというのは考えて然るべきものかと思います。個人的には「そういう人たちも一定の割合いるのだから、むしろ議席があること自体は自然」と考えていますが、NHK党も含めてワンイシューでいかれた連中を集めてきて票を稼ぐ仕組みというのは、ネットでの好事家収拾でネットワーク化が進むと当然ながら現有議席をレバレッジにした社会の不安定化に直結してしまうという懸念の声も出ているのは一定の事実とは思います。

 躍進した国民民主党に対する罵声でも、財源の裏付けのないばら撒き政策を主張するポピュリズム政党だと糾弾される動きがあります。が、しかしこれは、実際にはそのような政策主張であっても働く世代や若い人たちからすればそういう政治を実現してほしいという期待感の表れであることは間違いなく、それを無視して批判したところでそういう人たちに自民や立憲、共産に票を入れてくれるような政策を主張できていない無力さの裏返しであることもよく知っておくべきなのです。そういう耳障りの良い言葉をTikTokなどで垂れ流して得票することの是非と言っても、それに勝てる提案を既存政党の側がついぞできなかったからこそ国民民主党は躍進したのだから、そういう有権者のニーズとよくよく向かい合うべきとしか申し上げようがありません。

 そして、そういうライトな政治観を持つ有権者層と違って、本来は自民党の党員・党友108万人というのは身銭を切ってでも自民党を支援し、政策を良い方向に導いてほしいというまぎれもない政治関心層です。ところが、そこで得た党員・党友票というのは、結果的に、マスコミでたくさん流れる石破茂さんや高市早苗さんのような特定方面からの人気にもおおいに引っ張られ、おそらくは選挙の顔としてはともかく政権運営では実力のある人たちにはさっぱり投票が入らないという、最も駄目な人気投票の部類になってしまったのは反省するべきです。いま決選投票でも党員・党友の皆さんの意見を議員票と同じぐらいの重みにしようという話は出ていますが、仮に選挙人方式にしたとしてもやはり政治に実際携わるプロの目から見て相応しい総裁を戴くことを重視するべきなのではないかな、と思います。

 なので、今回の件で言うならば、まだ結論は先になるでしょうが特別国会召集までに石破茂さんご勇退、自社さ政権のような玉木雄一郎総理爆誕という可能性を私はまだ否定できないかなあと思ったりもします。正直、いまのマスコミからの突然の国民民主党バッシングはその辺をかなり怖れてのことかなとも思いますが、マスコミが何を言おうが本件の決着のトリガーこそ石破茂さんが握っているわけですから、居座るにせよ禅譲するにせよ最善の選択をしてくれればと願っております。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.458 石破茂政権の進退をあれこれ思案しつつ、AI学習データの権利問題やこれからの日本が直面する安全保障問題を語る回
2024年10月31日発行号 目次
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【0. 序文】弊所JILIS『コロキウム』開設のお知らせとお誘い
【1. インシデント1】野党は衆院選で躍進したけど「紙の健康保険証」にこだわるのって何なのか
【2. インシデント2】米社会の権威や秩序を揺るがしつつイーロン・マスクさんはどこへ向かう
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
【4. インシデント3】この政治日程で少数与党のまま通常国会に突っ込む俺たちの石破茂を助けて

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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