茂木健一郎
@kenichiromogi

茂木健一郎の「赤毛のアン」で英語づけ(4)

『「赤毛のアン」で英語づけ』(4) 大切な人への手紙は〝語感〟にこだわろう

新刊『「赤毛のアン」で英語づけ』

 

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高校一年のときに「赤毛のアン」を原書で読むことによって英語力が飛躍的に高まったという茂木氏。「とにかく最初から最後まで読み通す」ことで、自信をつけて「英語脳」を身につけることが英語力向上の秘訣。本書を一冊読めば英語力も自然とアップし、「赤毛のアン」という物語が持つ魅力にも触れることができます。名文で「英語脳」を強化する!!

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※このコーナーでは脳科学者の茂木健一郎さんが、『赤毛のアン』の原文から特に印象的なシーンを取り上げ、そこに現れる「英語フィーリング」を解説します。「英語脳」を鍛えたい人、必読です!

 

大切な人への手紙は〝語感〟にこだわろう

――『柳風荘のアン』「最初の一年」1より

 

では、『赤毛のアン』シリーズから、他のテクストを読んでみましょう。

私たちが読んできた『赤毛のアン』は、アンとギルバートがクイーンズ学院を卒業して、アンがアヴォンリー小学校の先生になることを決意するところで終わります。この第1作が好評だったため、作者のモンゴメリは、その後、アンを主人公にした作品をシリーズとして書くことになりました。

ここでは、その中から、アンとギルバートの婚約時代を描いた『柳風荘のアン』(Anne of Windy Willows、邦題『アンの幸福』)を取り上げます。

この物語では、ギルバートは、キングスポートのレドモンド大学で、医学の研究にあたっています。一方、アンは、プリンスエドワード島第2の都市、サマーサイドの高校長となり、柳風荘という家に下宿しています。このように2人が離ればなれに過ごした3年の間に、アンからギルバートに送った手紙、という形式で、大部分が語られています。アン・シリーズの中でも、私が一番好きな作品の一つです。

『柳風荘のアン』(Anne of Windy Willows)は、実は、『楓荘のアン』(Anne of Windy Poplars)という別のタイトルでも出版されています。そして、インターネット上にあるフリーのテクストは、後者のタイトルのものが整備されているようです。

しかし、私は、最初に読んだ原書が『Anne of Windy Willows』だったこと、アンが下宿している家に、大きな柳の木があると考えた方が、さわやかなイメージが広がる気がすることから、この作品を、『柳風荘のアン』(Anne of Windy Willows)と呼びたいと思います。

まずは、この物語の冒頭に登場する、アンからギルバートへのラヴ・レターの文章を取り上げましょう。本書は、ここから始まります。これまで『赤毛のアン』を読まれてきた方には、アンとギルバートの関係の変化が、よくわかる文面です。

 

それでは、今回の英文です。

 

It's dusk, dearest. (In passing, isn't 'dusk' a lovely word? I like it better than twilight. It sounds so velvety and shadowy and . . . and . . . dusky.) In daylight I belong to the world . . . in the night to sleep and eternity. But in the dusk I'm free from both and belong only to myself . . . and you. So I'm going to keep this hour sacred to writing to you. Though this won't be a love-letter. I have a scratchy pen and I can't write love-letters with a scratchy pen . . . or a sharp pen . . . or a stub pen. So you'll only get that kind of letter from me when I have exactly the right kind of pen. Meanwhile, I'll tell you about my new domicile and its inhabitants. Gilbert, they're such dears.

 

 

dusk=黄昏、夕暮れ時
in passing=ついでに、ちなみに
domicile=住まい

 

 

日本語で、だいたいの意味を見ていきましょう。

 

It's dusk, dearest. (In passing, isn't 'dusk' a lovely word?
⇒「今は、黄昏なのよ、あなた。(そういえば、「黄昏」って、素敵な言葉じゃない。

I like it better than twilight. It sounds so velvety and shadowy and . . . and . . . dusky.)
⇒「黄昏」の方が、「夕暮れ」よりもいいわ。だって、ヴェルヴェットのようで、陰影があって、それに、それに、黄昏っぽいんですもの。)

In daylight I belong to the world . . . in the night to sleep and eternity.
⇒昼間のうちは、私は世界に所属しています。夜は、眠りと、永遠に所属しています。

But in the dusk I'm free from both and belong only to myself . . . and you.
⇒でも、黄昏時には、どちららも自由で、私・・・そして、あなたに所属しているのです。

So I'm going to keep this hour sacred to writing to you.
⇒だから、私は、この時間を、あなたに手紙を書くことに捧げたいと思います。

Though this won't be a love-letter.
⇒残念ながら、これはラヴ・レターではありません。

I have a scratchy pen and I can't write love-letters with a scratchy pen . . . or a sharp pen . . . or a stub pen.
⇒だって、ひっかかるペンしかないんですもの。ひっかかるペンでは、ラヴ・レターは書けないわ。鋭すぎるペンでも、短いペンでもダメね。

So you'll only get that kind of letter from me when I have exactly the right kind of pen.
⇒だから、その種の手紙は、ちょうど良いペンが手元にある時だけ、もらえると思ってね。

Meanwhile, I'll tell you about my new domicile and its inhabitants. Gilbert, they're such dears.
⇒そういうわけで、私の新しい下宿と、その住人について書こうと思います。ギルバート、本当に可愛らしい人たちなの。

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茂木健一郎
脳科学者。1962年東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに、文藝評論、美術評論などにも取り組む。2006年1月~2010年3月、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』キャスター。『脳と仮想』(小林秀雄賞)、『今、ここからすべての場所へ』(桑原武夫学芸賞)、『脳とクオリア』、『生きて死ぬ私』など著書多数。

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