小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」より

iPhone6の画面サイズにみる「クック流Apple」の戦略

※この記事はメールマガジン「小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」」2014年9月26日号「iPhone 6・Apple Watchなど「アップル2014年秋の施策」を分析する」のダイジェストです。続きはバックナンバーを購読してご覧ください!

 

9月9日(現地時間)、アップルはiPhone 6シリーズとスマートウォッチ「Apple Watch」を発表した。あれから2週間以上が経過し、iPhone 6も無事発売され、多くの人の手元に届いたことだろう。

他方で、商品以外の側面で、アップルがなにを考えているのか、他社戦略との違いなどを分析した記事は、まださほど多くない。今回は、発表会後様々な形で得られた情報を中心に、「アップルがいま考えていること」を分析してみる。そこからは、「ティム・クック世代のアップル」の進む道も、いままで以上にはっきりと見えてくる。

・アップルのティム・クックCEO。今回の発表は色々議論も巻き起こしたが、かな
り「クック流」の匂いがしてきた。

 

アップルの今後を左右する「iPhone 6のディスプレイ変更」

さて、まずはiPhone 6から行こう。

いうまでもなく、最大のトピックはサイズの変化だ。「デカすぎる」だの「尻ポケットに入れると折れる」だの、毀誉褒貶(というかdisり)も色々あるが、販売台数的にはきわめて好調だ。9月22日、アップルは、発売から3日でiPhone 6シリーズの出荷台数が1000万台を越えた、と発表した。転売による中国市場への流入、といった難題もあったが、それが与えた影響はさすがに限定的と考えられるので、やはり人気が高い、と考えるのが自然だ。

iPhone 6で画面が大型化したのは、やはりAndroidのライバルが大型化したから、と考えるのが自然だ。別にそのことを、アップルも強く否定はしていない。ただし、現在に至るまでの間、画面の大型化傾向を意識していなかったのか、というと、そうではないようだ。

iOSのディスプレイサイズ戦略は、iOSそのものの開発方針と密接に結びついている。初代iPhoneにおいて、画面解像度は320×240ドットであり、その後iPhoneは、その整数倍もしくは縦方向の延長で進んできた。iPadについても、1024×768ドットとその整数倍であり、iPhone用アプリを動かす場合にも、無理に全画面拡大することなく、周囲に黒枠をつけて動かしている。

こういうアプローチを採った理由は、アップルという1社が提供する製品であり、アプリ開発上の一貫性を維持しやすいからだ。ハードウエア的な負担も最低限で済む。

それに対しAndroidは、最初期から多様なディスプレイサイズと縦横比を許容してきた。アプリケーション開発上も、そうした違いを意識した開発とデザインが望ましく、そのための仕組みもある。一方で、開発者は多様な端末への対応が必要であり、難易度があがりやすい。特に、スマートフォンとタブレットでまったく同じようにアプリが動く関係上、相互での動作状況確認も必要だ。また、OSのアップデートが、端末メーカーだけでなく、携帯電話事業者の判断も絡んで行われる関係から、iOSに比べ最新版の利用率が低く、この点も動作確認の面ではマイナスだ。

こうしたことを、アップルは盛んに「不連続性」(フラグメンテーション)と呼んで攻撃してきた。

だからこそ、今回iPhone 6でディスプレイサイズと解像度を変えたことで「言うこととやることが異なる」と思われたわけだ。

だが、そんなことは当然アップルもわかっている。複数のアップル関係者は、今回の変更が長く、慎重に準備されてきたものである、と筆者に語っている。「2007年にiPhoneが出た時、『こんな画面がでかい電話が使えるか』と批判された。今のiPhone 6もそのようなもの。すぐに収まる」

アップル関係者がそういうのは、なにもポジショントーク、というだけではない。

スマートフォンはもはや電話ではなくなっている。アプリやウェブの利用はもちろん、コミュニケーションの形としても、文字や写真の利用率が上がっており、通話比率の低下は、情報量増大とつながる。全員が5.5インチのiPhone 6 Plusのサイズを求めるわけではないだろうが、全体の中央値は、4インチよりも上にずれていく傾向にある。

もうひとつは、デバイス調達戦略上の問題だ。

iPhoneは、単独ではいまだ最大の需要を持つスマートフォンであり、iPhoneを優先にパーツが供給される状況にある。だが、スマートフォン全体の数が増えれば増えるほど、iPhoneの占有率は落ちていく。パーツの進化方向を考えると、より解像度が高く、サイズの大きなものが求められている。

従来のアップルの戦略では、同一サイズで続けるか、さらに解像度を整数倍にするか、という選択肢になるが、サイズ面ではトレンドからはずれていくし、解像度面では、いきなりさらに2倍は無理がある。すなわち、アップルは両方の面で、いつかは「iPhone 5sまでのやり方」から脱する必要があったのだ。

そこで、Androidと同じ轍を踏まぬためにはどうするのか? アップルが採ったのは、スケーラーによる拡大を利用する、という方法だ。

 

1 2 3

その他の記事

歴史と現実の狭間で揺れる「モザイク都市」エルサレムで考えたこと(高城剛)
Kindle Unlimitedのラインナップ変更は「日本への対応」不足が原因だ(西田宗千佳)
ガイアの夜明けで話題沸騰! 15期連続2桁増収のスーパーの人事戦略を支える「類人猿分類」のすごさ(名越康文)
睡眠時間を削ってまで散歩がしたくなる、位置情報ゲームIngress(イングレス)って何?(宇野常寛)
ライカのデュアルレンズを搭載したスマートフォンの登場(高城剛)
除湿、食事、温灸……梅雨時のカラダ管理、してますか?(若林理砂)
総務省家計調査がやってきた!(小寺信良)
川端裕人×オランウータン研究者・久世濃子さん<ヒトに近くて遠い生き物、「オランウータン」を追いかけて >第1回(川端裕人)
新しい健康食トレンド「レクチンフリー」を日本ならではの形で試みる(高城剛)
韓国情勢「再評価」で、問題知識人が炙り出されるリトマス試験紙大会と化す(やまもといちろう)
歴史に見られる不思議なサイクル(高城剛)
スマホv.s.PC議論がもう古い理由(小寺信良)
変わる放送、Inter BEEに見るトレンド(小寺信良)
ひとりの女性歌手を巡る奇跡(本田雅一)
改めて考える「ヘッドホンの音漏れ」問題(西田宗千佳)

ページのトップへ