※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2015年7月3日 Vol.041 <梅雨はそろそろ飽きた号>より
6月5日に放送された金曜プレミアム「池上彰 緊急スペシャル!」において、韓国の方のインタビューに、しゃべってる言葉と全然違うテロップおよび吹き替えが載せられていたとして、問題になっている。公式サイトでもお詫びが出ている。
・池上彰 緊急スペシャル! お詫び
http://www.fujitv.co.jp/b_hp/ikegamiakira_sp/
判明したのは2箇所。女性のインタビューで「嫌いですよ、だって韓国を苦しめたじゃないですか」と、テロップが載ったものの、実際の音声を韓国語がわかる人が聴くと、「文化がたくさんあります。だから、外国の人がたくさん訪問してくれているようです」としゃべっているという。
意味がまったく逆になっているが、フジテレビでは、この音声部分は韓国について話している部分で、別の部分では「日本が嫌いです」と答えているという。
また別の男性インタビューでは、「日本人にはいい人もいますが、国として嫌いです」と吹き替え音声を載せている。ここはオリジナル音声が途中で消えているので、最初の方しか聴き取れないようだが、「過去の歴史を反省せず、そういう部分が私はちょっと…」という発言だという。
こちらも内容がズレているが、別の部分では実際に吹き替えのように発言しているという。
実際に僕も編集マンとして過去、自分で言葉がわからない外国語話者のインタビューを編集したことは何度もある。こういうのをどういう段取りでやるかというと、一度ビデオを通訳の方に送って、だいたいどういうことをしゃべっているか、書き起こししてもらう。
そしてディレクターや編集者がどの部分を使うかを決めて、番組全体を構成する。そして実際にインタビューのうち、具体的に何分何秒から何分何秒までを使うか、という時には、通訳さんを編集スタジオに呼んで、ここからここまで切り取って問題ないかを確認してもらう。
なぜならば、編集者はどこが文章や意味としての切れ目なのかがわからないからである。タレントや政治家など、しゃべりに慣れている人はセンテンスが短く、間を空けてしゃべるので、センテンスの切れ目はだいたいわかるが、一般の方の街頭インタビューでは、そうやって文章をひとつにまとめてしゃべる人は極めて少ない。またしゃべり出しも「えーとそうね」とか「そういう話はよく聴くけど…」のような部分が付くことも多い。そういうところは切って、話の本題だけにしたいわけである。
さらに言えば、1センテンスだけでなく、2センテンスを繋ぐこともある。その場合には逆に、2センテンス目の頭には「だから」とか「しかし」といった接頭語が必要になる。そういう細かいところまでこちらはわからないので、編集現場に通訳さんにいてもらう必要があるのだ。
また使うところが確定したら、そこの正確な和訳が必要になる。正確というのは、言葉全部を逐一翻訳するのではない。テレビの字幕では見せられる文字数が限られるので、ある程度言葉をまとめる必要がある。その際に、主旨として違ってこないか、ニュアンスに間違いないかを、通訳さんとディスカッションする必要がある。
普通はそういう作業をしないと、編集もままならないはずなのだが、ではなぜ今回のようなミスが起こったのか。男性インタビューの部分は、わりとわかりやすい。おそらくインタビューとしてはもっと長く使う予定だったが、それを完成に近づいたあたりで半分ぐらいにしたのではないか。そこで誰も原語がわからないため、映像は最初から使い、字幕や吹き替えはエッセンス部分だけ残したために、言葉と内容がズレた可能性は高い。途中から原語を消してボイスオーバーになるから問題ない、と考えたのかもしれない。
一方女性インタビューのほうは、映像の使い場所があまりにもズレ過ぎているように思う。ここは通訳さんが現場にいない中、新たに加えることになったか、本来はもっと長いインタビューで、男性の例と同じミスを犯したか。
この問題は、インタビュー全体を外部の人間が誰も知ることができないので、結局はフジテレビが主張することを鵜呑みにするしかないことになる。根本的には、編集初期の状態から手を入れているのに、原語チェックできる人が誰もいないまま、放送まで行ったということが問題だ。この手の確認は、通訳さんに音声が伝われば、電話でも可能だ。しかしそれをやらなかった。
フジテレビとしては、「単純なミス、ごめんね」で幕引きを図りたいところだろうが、放送内容に誤りがあったのであれば、訂正しなければならない。検証特番をやるほどでもないと考えているのかもしれないが、少なくともレギュラー枠の中でなんらかの訂正は必要だろう。
また再発防止策にも具体性が何ひとつない。BPO「放送倫理・番組向上機構」での調査や、総務省の行政指導がなければ何もしないのだろうか。別にフジテレビを叩くという意図はないのだが、ネットで騒がれたからしょうがなく謝罪文出しました、もうこれでいいですよねハイハイというような対応に見えてしまうのでは、炎上対策としてはどう見てもマイナス要因しか残らない。
ネットではライブでどんどん、真偽の不確かな情報が入る現代、検証された正確な情報の提供というのが、マスメディアに課せられた重要な役割だ。制作費を締め付けすぎると、こういった検証確認部分にコストがかけられなくなり、どうしても雑になってしまう。
今回の事件は、フジテレビだけの問題ではなく、テレビ放送全体に疑いの目を向けられることになる。多くの視聴者は、どの放送局かはあまり意識せずにテレビを見ているからだ。
いやしかしこの手の、手を抜けばすぐバレるだろ的な凡ミスを、池上彰を起用したスペシャルでやらかしてしまうのだから、全盛期を内側から知っている者からすると、あのフジテレビも地に落ちたなぁと思わざるを得ない。
小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」
2015年7月3日 Vol.041 <梅雨はそろそろ飽きた号>目次
01 論壇(西田)
E3 2015から見る現在のゲーム市場
02 余談(小寺)
不可解なフジテレビのインタビューねつ造シーン
03 対談(小寺)
救急という視点から見たドローンの未来(1)
04 過去記事アーカイブズ(西田)
日本で「ネット配信」が伸びない理由
05 ニュースクリップ(小寺・西田)
06 今週のおたより(小寺・西田)
07 今週のおしごと(小寺・西田)
コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。 家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。
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