「場」への貢献が居場所を作る
こういう例もあります。
山口県のある小学校と中学校が、すごく荒れていた。中学校では暴力事件が起きてしまって、警察沙汰になってしまった。地元の人たちが「どうにかしよう」と思って始めたのが、下水のように汚かった川の清掃だったそうなんです。
その川には昔は蛍がいたので、蛍をどうにかして呼び戻し、同時に子どもたちに命と環境の大切さを教えたいということですね。
それで、小学校4年生になると、子どもたちが地元の団体が寄付した蛍小屋で、蛍の幼虫を育てるんです。4年生たちが育てて、放流した蛍が、夏に川に帰ってくる。
そうするうちに地元では蛍が有名になって、ちょっとしたお祭りが開かれるようになった。そのお祭りを通して、子どもたちは自分の「居場所」を感じるわけです。頑張って蛍を育てたら、周りのみんなが喜んでくれた。これは嬉しいですよねその四年生たちは、地元ではヒーローなんです。大人たちに「蛍係り」になったんだって?って声をかけられるくらい。
そういうふうに、ある「場所」に何かを与えること。これを清水先生は、贈与をひっくり返して「与贈」と言っているんですけれども、「与贈」することによって周囲の関係や、生き方がより豊かなものに変わっていく。
これは、僕が震災のあとにボランティア活動をしていたときにも、感じていたことです。山形大学の学生を連れていって、掃除をさせていたんですけれども、ボランティアをやる前と、やった後では学生たちの意識ががらっと変わったんですよね。
ある学生は、「東京に出て就職したい」と思っていた。しかし、ボランティアを経験したあとでは、「自分が地元に貢献できることがあるんじゃないか」という思いが強くなって、地元に就職を決めたんです。
子どもたちは蛍の飼育を通して、学生はボランティアを通して、「場所に対して貢献をする」ということが、自分の居場所を作るということを身を持って知ったわけですよね。
逆に、場所から何かを収奪しようとした瞬間に、居場所はなくなる。そのしくみを「与贈循環」と言います。

その他の記事
![]() |
いつもは持たない望遠レンズで臨む世界遺産パンタナル大湿原(高城剛) |
![]() |
コロナワクチン関連報道に見る、日本のテレビマスコミの罪深さ(やまもといちろう) |
![]() |
もし朝日新聞社が年俸制で記者がばんばん転職する会社だったら(城繁幸) |
![]() |
「なぜ本を読まなければいけないのか」と思ったときに読む話(名越康文) |
![]() |
川端裕人×松本朱実さん 「動物園教育」をめぐる対談 第2回(川端裕人) |
![]() |
ドラッカーはなぜ『イノベーションと企業家精神』を書いたか(岩崎夏海) |
![]() |
このイカが意外に便利、スマホ三脚「SQUIDDY」(小寺信良) |
![]() |
僕がネットに興味を持てなくなった理由(宇野常寛) |
![]() |
「すべては2つ持て」–私の出張装備2015(西田宗千佳) |
![]() |
「立憲共産党」はなぜ伸び悩んだか(やまもといちろう) |
![]() |
孤独と自由との間で、私たちは生きている(西條剛央) |
![]() |
サプリメントにも必要な「衣替え」(高城剛) |
![]() |
5年後の未来? Canon Expoで見たもの(小寺信良) |
![]() |
川端裕人×オランウータン研究者久世濃子さん<ヒトに近くて遠い生き物、「オランウータン」を追いかけて>第2回(川端裕人) |
![]() |
「英語フィーリング」を鍛えよう! 教養の体幹を鍛える英語トレーニング(茂木健一郎) |