津田大介
@tsuda

中国在住フリーライター・ふるまいよしこ氏に訊く

「反日デモ」はメディアでどう報じられ、伝わったか

毛沢東像は何を意味するか

津田:もうひとつ気になることがあります。今回のデモでは1949年に今の中国——「中華人民共和国」を建国した毛沢東の肖像が担ぎだされましたよね。僕らにしたら、「え、なぜ毛沢東?」と不思議です。あれはどのように理解すればよいのでしょうか?

ふるまい:毛沢東が引っ張り出された理由については、日本のメディアを見ていても、さまざまな意見がありますね。「あれは現政権に対する批判である」「共産主義華やかなりし頃に戻りたいという気持ちの表れなのだ」——まあ、そういう意見には、多くの中国人が首をひねっていますけど。

中国人、特にツイッターユーザーたちは毛沢東像を見て、「なんで今ごろ……」と震え上がっているんですよ。

1965年、共産党主席を追われた毛沢東は、その座を奪還するため、10年にもわたる権力闘争を行います。この間、中国は内戦状態に陥り、反動分子の処刑などによって、2000万人以上が犠牲になったといわれています。

中国人は彼を見ると、その「文化大革命」を思い出すんです。

ただ面白いことに、今回毛沢東の肖像を掲げて練り歩いたのは、文化大革命を知らない若い世代でした。知識はあっても、経験はしていない人たちなんですね。

津田:ではなぜ、彼らは毛沢東像を掲げたのでしょう?

ふるまい:毛沢東は1937年に始まった「抗日戦争」——日中戦争の勝利者とされているんですね。

実際はと言うと、日本と戦って勝ったのは、蒋介石率いる国民党でしたが、国民党はそのために疲弊して中国共産党との政権争いに敗れ、台湾に敗走しました。それが今の中国では、毛沢東率いる共産党の功績になっているわけです。

日本に勝った指導者・毛沢東、その姿を日本に突きつける——今回のデモでその肖像が引っ張り出されたのは、そういう単純な発想からだったんじゃないかと私は思います。

津田:毛沢東と並び、この3月に失脚した重慶市の前党委書記・薄煕来 [*9] の肖像も持ち出されましたよね。

薄煕来は、近く開催される5年に1度の中国共産党大会 [*10] で、党首脳の「チャイナ9」に入ると目されるほどの実力者でした。しかし失脚してしまった。その彼がこのデモで持ちだされたのは、なぜなのでしょう?

ふるまい:薄煕来は政治的要因で失脚はしましたが、重慶の地元では彼の支持者は多いんです。また在職中に毛沢東礼賛のような行動も多かったので、毛沢東と薄煕来を重ね合わせた人もいたのだと思います。

津田:中国版ツイッターの「微博(ウェイボー)」[*11] では、今回のデモをめぐって、みんなどんな発言をしていましたか?

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津田大介
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事。J-WAVE『JAM THE WORLD』火曜日ナビゲーター。IT・ネットサービスやネットカルチャー、ネットジャーナリズム、著作権問題、コンテンツビジネス論などを専門分野に執筆活動を行う。ネットニュースメディア「ナタリー」の設立・運営にも携わる。主な著書に『Twitter社会論』(洋泉社)、『未来型サバイバル音楽論』(中央公論新社)など。

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