名越康文
@nakoshiyasufumi

名越康文メルマガ『生きるための対話』より

ダイエットが必ず失敗する理由

ホンモノの空腹感、ニセモノの空腹感

「空腹感」に伴うそうした暗いイメージを払っていると、次第に、「空腹感」そのものにさまざまな「異物」が付着している、ということに気づいてきます。

どういうことかというと、僕らが通常認識している空腹感というのは、実は純粋な意味での「空腹」という感覚だけではなく、そこに「思考」や「感情」が複雑に絡み合ってつくられた“複合体”だということなんです。

つまり、「お腹が空いている」という“純粋感覚としての空腹感”の部分と、「そろそろ夕飯の時間だから食べなければ」という思考と、「食べないとヤバい」「食べないと死んじゃうかもしれない……」といった感情(不安)が、わかちがたく結びついている。それが、僕らが日常に体験している空腹感(感覚複合体としての空腹感)の実態なんじゃないか、ということです。

それらは感覚複合体としてほとんど同時に、一瞬のうちに意識にのぼってくるので、弁別するのは非常に難しいのですが、丁寧に腑分けしていくと、“純粋感覚としての空腹感”というものを、実は僕らは日常的にほとんど体験できていない、ということがわかってきました。

空腹感がやってきたときに、そこに付随している不安を探していく。そうやって不安を取り除くと、大げさじゃなく、空腹感が10分の1になります。しかも、そうやってかなりの程度、純粋感覚に近づいた空腹感というのは、辛さとか苦しさといった感覚とはかけはなれた、ほのかな快感すら伴うような、心地よい感覚なんです。

そういう純粋感覚としての空腹感を、僕らはほとんど体験していない。

裏を返すと、僕らが通常「空腹感」としてイメージする「辛い」「苦しい」感覚は、純粋感覚としての「空腹感」に由来するものではなく、不安や妄想に由来するものなんだと思います。

「お腹減った……」というとき、もし暗く、辛く、悲しいような感情が伴っていたら、それは“純粋感覚としての空腹感”とはほとんど無関係なところからやってきたものである可能性が高い。

日常的に抱えている“怒り”などの感情や思考が、純粋感覚としての「空腹感」に付着し、分かちがたく結びつくことによって“感覚複合体としての空腹感”を作り上げている。そして、あたかもそうした複合体こそが「空腹感」であるかのように、僕らは認識してしまっているんです。

「感情」と「思考」にまみれた“感覚複合体としての空腹感”は、本来の“純粋感覚としての空腹感”とはまるで別物です。そういう意味では、“純粋感覚としての空腹感”というのは、現実的には僕らが体験することが叶わない「虚構」と化してしまっているのが実情かもしれません。

ただ、「感情」と「思考」をできるだけ払っていけば、「空腹感」は、だんだんと“純粋感覚としての空腹感”に近づいていきます。そうすると、どんどん辛さは薄れ、「気持ちいい空腹」が訪れる。

ですから、僕の「夕食抜きダイエット」には、「我慢」を求めるものじゃないんです。“感覚複合体としての空腹感”を解体して空腹感を純粋感覚に近づけていくことで、「辛い空腹感」が消えていく。逆に言えば、「辛い」と思ったら、それは感覚複合体に囚われているということを意味するということです。

1 2 3 4 5
名越康文
1960年、奈良県生まれ。精神科医。相愛大学、高野山大学、龍谷大学客員教授。 専門は思春期精神医学、精神療法。近畿大学医学部卒業後、大阪府立中宮病院(現:現:大阪精神医療センター)にて、精神科救急病棟の設立、責任者を経て、1999年に同病院を退職。引き続き臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。 著書に『「鬼滅の刃」が教えてくれた 傷ついたまま生きるためのヒント』(宝島社)、『SOLOTIME~ひとりぼっちこそが最強の生存戦略である』(夜間飛行)『【新版】自分を支える心の技法』(小学館新書)『驚く力』(夜間飛行)ほか多数。 「THE BIRDIC BAND」として音楽活動にも精力的に活動中。YouTubeチャンネル「名越康文シークレットトークYouTube分室」も好評。チャンネル登録12万人。https://www.youtube.com/c/nakoshiyasufumiTVsecrettalk 夜間飛行より、通信講座「名越式性格分類ゼミ(通信講座版)」配信中。 名越康文公式サイト「精神科医・名越康文の研究室」 http://nakoshiyasufumi.net/

その他の記事

怪しい南の島が目指す「金融立国」から「観光立国」への道(高城剛)
『「赤毛のアン」で英語づけ』(2) 何げないものへの〝感激力〟を育てよう(茂木健一郎)
「銀座」と呼ばれる北陸の地で考えること(高城剛)
上杉隆さんのこと、日本のメディアのこと(茂木健一郎)
マイナンバーカードについて思うこと(本田雅一)
「科学的」と言われることは「現在のひとつの見方」にしか過ぎない(高城剛)
この冬は「ヒートショック」に注意(小寺信良)
「考える」というのは「答えを出すこと」じゃないよ(家入一真)
変化の本質は、コロナではなく、自動化に向かう世界(高城剛)
働かないのか? 働けないのか? 城繁幸×西田亮介特別対談(前編)(城繁幸)
使ってみたら便利だったDropbox「スマートシンク」(小寺信良)
「魔術」をアカデミックにひもとく ! ? 中世アラビア禁断の魔術書『ピカトリクス』の魅力(鏡リュウジ)
パーソナルかつリモート化していく医療(高城剛)
歴史に見られる不思議なサイクル(高城剛)
暴風雨となるライドシェア全面解禁論議(やまもといちろう)
名越康文のメールマガジン
「生きるための対話(dialogue)」

[料金(税込)] 550円(税込)/ 月
[発行周期] 月2回発行(第1,第3月曜日配信予定)

ページのトップへ