総ブラック社会はやっぱり回避しないといけないよね~~『人間迷路』のウラのウラ

なぜケータイ小説がダメになってしまったのか

井之上:これからメルマガを含めた活動で、具体的なご予定とかはありますか。

やまもと:まだ具体的に言えませんね。メルマガが面白いので『やまもと全書』みたいな感じで本にしてもらえませんか、みたいな話があったりします。ただ、僕としては、とにかく最低2年は続けてみないと分からないと思っているんです。だから、ちょっと長い時間お待たせてしてしまうかもしれないので、何かあればこちらからご連絡しますという形で返している。そういう打診が来るのも、メルマガが注目されればこそだと思うんですよね。

同じようなことはcakesさんにも言いました。メルマガと違う形で有料配信をする以上、同じことをやってもしょうがないので、インシデント系じゃない形ということをご相談して、小説を寄稿することにしたわけです。僕自身、意外に知られていないことかもしれないんですけど、文芸が大好きなんです。だから、ずっと書いてきたし、これからも書きたかったんですよ。ただ、ブログで文芸、というと変だなあと思っていたので、いい機会をいただいたと思っています。もう恥ずかしくて出せませんが、ケータイ小説時代にもいくつか作品を書いていたんですよね(笑)。反響はさっぱりでしたが。

井之上:ケータイ小説も書いていたんですね(笑)。それにしても、ケータイ小説は素晴らしいビジネスモデルだと考えていて、夜間飛行も参考にしているところが多いんです。どうして突然ダメになってしまったのだと思いますか。

やまもと:ケータイ小説のブームが途中で潰えてしまったのは、ケータイ小説界がバブルになって品質の低いものがたくさん溢れてしまったので、読み手の女の子たちが急激に飽きちゃったんだと思います。売れるための「定番」というものがあって、それを踏まえていれば売れるんですが、それがあっという間に消費されてしまった。レイプとか、彼氏の死とか、妊娠とかね。新しい定番も作りつつ、それ相応の品質を維持しながらコンパクトな業界を保っていれば、10年でも15年でも続いたと思うんですけど。

結局、今ウェブで起きていることというのは、そこからの変化なんですよ。「玉石混交でもとにかく情報が大量にあることがいいんだ」という価値観から、「きちんとピックアップされたものが読みやすく提示されていることがいいんだ」とだんだん変わってきた。

井之上:その変化はもうかなり進んでいるのでしょうか。

やまもと:ええ、それはもう完全に変わりきったと思っています。「チョイスされた情報の中からラベリングされたものを読みにいく」というのがルーチン化されていっている。僕のブログがどうして読まれているのかを丁寧に検証しようと思ったことが何回かあって、結局途中で挫折しているんですけれども、「僕の目からはこの事象はどう見えているかを知りたい人が読んでいる」というのが仮説として得られたんですよ。

そのうちのひとつが、炎上を解説する罵倒芸であったりする。みんな簡単に書けると思っているかもしれませんが、ノリでは書けないんですよ。きちんと炎上をきちんとリアルタイムで「見て」いないと、コンテクストが表現できない。結構、神経質に作らないといけなかったりするんですよね。いろいろ調べたりしなくてはいけないので、あれはあれで時間がかかっているんですよ。

結局、僕の文章はそういうひとつひとつのコンテンツに対して解釈し、「意味」を持たせるものなんですよ。もっと言えば、読み手の方は、世の中にたくさんあるコンテンツの「意味」を知りたいんだと思うんです。

今起きている事象を、どう受け止めたら、より快適で前向きに暮らしていけるのか、みたいなところを重点的に考えて編集すると、あのブログみたいな感じになる。まあ、ちょっと先鋭化はしているんですけど。

僕は僕で、こういうブログの書き方に行き詰まりを感じるところもあるんです。今のような罵倒芸を続けていれば、毎日20万PVは稼げるとしても、それが僕の本来書きたいことかといえば、当然そうではないわけです。外交や安全保障、仕事や投資に関すること、それからインターネット業界に関すること。そういうことについて、時間をかけて調べたいし、本当に書きたいのです。ただ、そういうネタで一定数の読者を獲得できているのかと言われるとできていないのが、残念ながら現実です。

1 2 3 4 5 6 7
やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

その他の記事

私が現役であることを思い知った夜(甲野善紀)
(3)プレッシャーの受け止め方(山中教子)
20代のうちは「借金してでも自分に先行投資する」ほうがいい?(家入一真)
台湾から感じるグローバルな時代の小国の力(高城剛)
コロナが起こす先進国と発展途上国の逆転(高城剛)
週に一度ぐらいはスマートフォンを持たず街に出かけてみよう(名越康文)
恥ずかしげもなくつまみをめいっぱい回せ! Roland「JC-01」(小寺信良)
本当の知性を育む「問いへの感度を高める読書」(岩崎夏海)
「骨伝導」のレベルが違う、「TREKZ AIR」を試す(小寺信良)
少子化を解消するカギは「家族の形」にある(岩崎夏海)
カビ毒ダイエットという新しい考え方(高城剛)
「#metoo」が本来の問題からいつの間にかすべてのハラスメント問題に広がっていくまで(やまもといちろう)
自己セラピーダイエットのすすめ:酒好き、食いしん坊のスーパーメタボなアラフィフでも健康と若さを取り戻せた理由(本田雅一)
『冷え取りごはん うるおいごはん』で養生しよう(若林理砂)
変わる放送、Inter BEEに見るトレンド(小寺信良)
やまもといちろうのメールマガジン
「人間迷路」

[料金(税込)] 770円(税込)/ 月
[発行周期] 月4回前後+号外

ページのトップへ