小山龍介
@ryu2net

小山龍介のメルマガ『ライフハック・ストリート』より

僕たちは「問題」によって生かされる<前編>

アートは「土壌の上に咲く花」

原尻:確かにね。その時間の「重層性」のなかから再現するところに、アートの奥深さがあるというのは、「内発性」というところに繋がる話だよね。

僕は今、『内発的発展とは何か』[*4]という本を読んでいて、関係性を研究対象とする「内発性」を勉強している。人が住んでいる場所に流れている時間と、そこに見出された関係性。それらがアートとして表現されることで、意味が立ち上がってくるんだろうね。

[*4]『内発的発展とは何か』川勝 平太、 鶴見 和子
http://amzn.to/PKlNWT

小山:そうなんだよね。アート自体もすごいんだけど、もっと重要なのは、まずそこに土壌があるということ。アートは、あくまでもそこに咲いた花みたいなものだと思う。土壌がないと花は咲かない。土壌に根差したアートだとすごくインパクトがある。土壌に根差していないアートも、当然存在するんだけど、そうしたアートはなぜか心に響かない。土壌に根ざしたアートは、過去を現在へと開いていくんだよね。もしくは、アートがある地域を他の地域へと開いていく窓口、きっかけのようになっている。

例えば北欧のアーティストの作品で「欲しい家具を各家庭からヒアリングして、製作し、プレゼントした」という作品もある。

「どんな家具が欲しいですか?」と聞いたら、ある人は本棚で、ある人はソファーと答える。ある人は椅子、ある人は食器棚が欲しいという。そうやっていろいろヒアリングして、みんなの欲しい物をつくってプレゼントしたんです。

この作品、最初は写真の展示だったんですよ。それぞれ家の中を見せることはできないから、つくった物がこうやって家のなかで使われています、という写真だった。ところが、最近では、「見ていいですよ」と家の中も公開してくれる人も
出てきた。

今までプライベートとして閉じていたものが、アートによって半分パブリックに開いていく。問題を発見したら、それを個人だけでクローズドにするんじゃなくて、それがいろんな人の問題としても認識されていくような開かれ方が、たぶんあるんだろうなと思った。

原尻:じゃあ、そこには、毎日のようにお客さんが来るの?

小山:まあ、さすがに毎日だと困るから、一定の期間を決めて「この日は来ていいですよ」という形だね。

原尻:日にちを決めて開くんだね。

小山:そう。そういう問題を長い時間のなかから掘り起こして、それを自分の問題として捉える。でもそのことが、実は他の人にも同じように共有されて開かれていく。たぶんそれって、さっき言った「内発的」なものだよね。個人のなかの内発的だってことも当然そうだけど、地域が「主語」となったときの地域の主体性がそういうところから生まれてくる。

原尻:面白いね! そこまでの段階にきているんだね。

 

鍵が鍵穴に、ぴったりとはまるように

原尻:「大地の芸術祭」は毎回新しいアートが登場するの? ずっと残っている作品と、その年度に新しく作られる作品があると聞いたんだけど。

小山:トリエンナーレは3年に1度の開催なので、次の芸術祭に向けてコンペティションをやるんです。そしてそのコンペで勝ち残った作品を、地域の実情とすり合わせて調整しながら、制作を進めていきます。

これも、清水先生の「鍵と鍵穴の相互誘導合致」という理論があるんですよね。お互いが、お互いに対して合わせていくうちに、鍵が鍵穴にはまるように、ぴったりと合わさるとという理論。

事前に地域側が作品のあり方を決めて、それに応募者が合わせるのでもなければ、逆に応募者が作品のあり方を一から十まで決めて、地域の人の要望を聞かない、ということでもない。それぞれが相手に合わせて調整し、お互いを受け入れていくプロセスがある。

まず初めは「こういうものをつくりたいんだ」という応募があって、コンペに通ったら「じゃあ、つくりましょう」と。地域に相談してみて「いや、こうやってほしいな」と要望がきたら、それに合わせて“相互誘導的”に合致していくようなプロセスをとる。

そうやって作品が増えてきたのが、越後妻有なんです。

アート作品の数もある程度増えてきたので、今後はパフォーマンスも組み合わせていくらしいね。今年は、ダンスカンパニーの「ニブロール」[*5]が公演をやっていました。それぞれの地域の歴史や風習を取り入れながら、パフォーミングアーツの展開もしていく。

[*5]
http://www.nibroll.com/

原尻:すごいね。

小山:それで、うちの会社のインターンの千葉くんに「越後妻有にボランティアに行ったほうがいいよ」とすすめていたんだけど「忙しいんで……」とか言っててね(笑)。

原尻:千葉くん、夏休みだったんでしょ? 行けばいいじゃん(笑)。

小山:「アプリ開発が忙しいから」だって。それこそ「時間の問題」なんですよ。アプリ開発のリリースが十月に迫っていて、これはもちろん、すぐに解決しなきゃいけない問題だよね。でもそれ以上に、長い時間かけて解決しなきゃいけない問題があって、そこにどう取り組むか。

そこに因果関係はない。「ボランティアに行ったからどうなるんですか」というのは分からない。でも、直感で言うと間違いなく絶対に行った方がいいわけですよ。そこを信じられるかどうかだよね。そういうのを信じて動ける人が、未来を創っていくと思う。

原尻:解決できない問題って、いっぱいあるからね。解決できるものしか取り組まないのは、よくないよね。

<後編につづく>

 

<この文章は小山龍介メルマガ『ライフハック・ストリート』から抜粋したものです。もしご興味を持っていただけましたら、ご購読をお願いします>

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小山龍介
1975年生まれ。コンセプトクリエーター。株式会社ブルームコンセプト代表取締役。京都大学文学部哲学科美術史卒業後、大手広告代理店勤務を経てサンダーバード国際経営大学院でMBAを取得。商品開発や新規事業立ち上げのコンサルティングを手がけながら、「ライフハック」に基づく講演、セミナーなどを行う。『IDEA HACKS!』『TIME HACKS!』など著書多数。訳書に『ビジネスモデル・ジェネレーション』。2010年から立教大学リーダーシップ研究所客員研究員。

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