日本交通・川鍋一朗が描く「交通」の未来

過疎化する地方でタクシーが果たす使命

都市生活におけるタクシー文化の可能性

宇野 ここまでのお話は、ある意味で業界にとっての「タクシー文化」の話ですね。でも、僕が本当に気になるのは市民にとってのタクシー文化なんですよ。

例えば、僕はほとんど百貨店に行かずに、楽天とアマゾンで買い物をしているんです。外食でも、通の人が出入りしている界隈を紹介してもらうよりは、食べログを見て「3.5なら行こうかな」という感じです(笑)。こういう都市生活の変化がある中で、公共交通機関は電車も飛行機も基本的には変わっていないわけです。そういう点では、まさに日本交通のタクシーアプリが交通における初めての変革ではないかと思うんです。

そこで僕に興味があるのは、市民とタクシーとの距離感がどう変わっていくかです。例えば、海外でタクシーアプリを使うユーザーにとっては、安全なタクシーを確実に呼べるのは大きいでしょう。でも、日本では治安が良いこともあって、タクシーでの犯罪というのはあまり聞かない。アメリカや途上国と日本では全く異なる変化が起きると思うんです。

川鍋 なるほど……。一つ言えば、アプリを使う若者たちに、タクシーという選択肢を持ち込めたのはありますね。

我々の世代くらいまでは、社会人になって飲みに行ったら、部長クラスから「しょうがないタクシーで帰れ」と指示を出されるのが、まだ経験としてあったんです。だけど、それはもう宇野さんや阿部さんの世代にはないでしょう。せいぜい年に数回程度という人が多いと思います。20代の人が人生でタクシー使った経験って非常に乏しいんです。その点で、アプリは入り口のハードルを下げたと思います。

宇野 タクシーって、本当は効率が良くて快適なものなんですよね。例えば、僕は東京の高田馬場に住んでいるのですが、車の免許を持っていません。でも、今から免許を取ろうとは思わないんです。というのも、都市に住んでいると、車の維持費よりタクシーの方が安いからなんですよ。かなり使っても、タクシーの方が安いでしょう。そのことにかなり気づいている東京都民って、あまりいないと思うんですね。

なぜ、そんなタクシーが市民から遠いのか僕はずっと疑問だったのですが、これって単にそういう文化がなかったからでしかない気がします。川鍋さんの試みは、そこをクリアすることになっていませんか。

川鍋 実は、タクシーって電話番号を登録しておくと、電話をかけて何もせずに1を2回押すだけで、自宅に来てくれるんですよ。だから、アプリなんて使うのかなという声もあったんです。でも、現実には誰もそんな比較はしなかった(笑)。確かに、純粋に行動様式の問題でしかなかったんですね。

もっと広い話題として、タクシーと生活文化との関わりを考えるなら、むしろこれからです。いまは単なるタクシーサービスですけれども、それでモノを運んでもいいし、頭痛が酷くなった人に薬を届けてもいい。5分程度で届くデリバリーという面での需要は大きいと思うんです。そういう、言わば「5分で一番速く来てくれる他人」という意味でのタクシーという姿が、今後一つあると思っていますね。実際、いま母の日に、車に母の日のプレゼントを積んで売るサービスをしていて、これをさらに展開していきたいと考えているところです。

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