宇都宮徹壱
@tete_room

海野隆太(浦和レッズサポーター @inumash)インタビュー<前篇>

横断幕事件の告発者が語る「本当に訴えたかったこと」

「うわあ、渦中の人間になっちゃったなぁ」

 

――その後のTwitter上での騒ぎはいつ頃知りました?

 

海野 帰宅するまで、ぜんぜんTwitterの反応は見ていなかったんです。槙野選手や宇都宮さんのツイートを知ったのは、だいぶ経ってからでした。帰宅後にリプライやリツイートなんかを見て、初めて「あっ、ここまでデカくなっていたんだ」っていうのに気が付いたんです。

 

――結構、青ざめたりしませんでしたか?

 

海野 「うわあ、渦中の人間になっちゃったなぁ」と思いましたよね。ただ浦和の場合、ゴール裏だけで1万人弱のお客さんが入るので、あの横断幕を見た人はかなりいたはずで、それに気付いて「こんなのまずいよ」ってツイートした人が、もっとたくさんいると思ったんですね。ところが実際は、そんなにいなかった。どちらかというと私のツイートを見て「浦和サポ、何やってんの?」っていう反応の方が多かったですね。

 

――なるほどね。あの横断幕を見て、海野さんのように「これは差別だ、ヤバい」って思った人もいたけれど、そう思わない人も実は結構多かったっていうことでしょうか?

 

海野 現地ではそうだったと思います。ハーフタイムになって、トイレに行ったり、売店に並んだりするときに、みんなあれを見ていたわけですよ。ただ、他にもたくさん横断幕があったので、そうした風景に埋もれてしまって、何も感じなかった人も多かったかもしれませんね。

 

――もし私がその場にいたら、見過ごしていた可能性は否定できません

 

海野 とはいえ、前を素通りするならまだしも、ゲートに入るときには「JAPANESE ONLY」の文字は見えていたはずです。その時に中学の公民とか歴史の教科書で習った「WHITE ONLY」を想起しない人って、あまりいないんじゃないかと思いますよ。

 

――ただ海野さんの場合、その場にいた観客の中では、わりとそういったものに対する感度が高かったのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?

 

海野 先ほども言いましたが、私はたまたまイングランドのサッカーも好きで、向こうでの人種差別的な横断幕やチャントで処罰された例などについて知識があったのは確かです。その意味では、他の人たちよりも少しだけアンテナの感度が高かったのかもしれません。ただJリーグの場合、そういった問題が出てこないことが魅力のひとつだとずっと思っていたんですが……。

 

――その後、ネット上でえらい騒ぎになって、海野さんもそうとう変な輩に絡まれたと思いますが、いかがでしょうか?

 

海野 宇都宮さんもそうだったんじゃないですか(笑)?

 

――私も多少はありましたけど、でも海野さんはひとつひとつに理路整然と対応されていて、見ていて偉いなあと(笑)

 

海野 私の場合、あの件に限らず普段からネット上で絡んでくる人がいるので、わりと慣れているというのはありますね。

 

――それはサッカー絡みで?

 

海野 いや、歴史絡みとか政治絡みとか。Twitterでつぶやくと、たまに変な人が絡んできます。まあ、たいていの人はそこでスルーするんでしょうけど、私の場合は言われっぱなしも癪なので、その人を説き伏せるというよりかは、周りから見て「この人、変だよね」って言われるような対応をするように心がけています。

 

――コラムニストの小田嶋隆さんがよく使う手ですね(笑)

 

海野 そうです、そうです(笑)。小田嶋さんはネットの喧嘩が上手いですよね。ただ今回の件に関しては、私よりも小田嶋さんの方がひどい絡まれ方をされていたと思います。そう考えると、特に自分自身が大変だなって感じることはありませんでした。むしろいつもネットで見られる、ダメな炎上の光景だなって思いながら見ていましたね。

 

<後篇(「徹マガ」通巻196号 ゴール裏の論理が通用しなくなった時代に−−海野隆太(浦和レッズサポーター@inumash)インタビュー<後篇>に続きます!>

 

●海野隆太(うみの・りゅうた)
1980年生まれ、都内在住の会社員。ホームゲームと関東圏のアウエーには行く程度のゆるサポ。レッズ以外では“(オアシスの)ギャラガー兄弟のお気に入りクラブ”だと勘違いしたのがきっかけでマンチェスター・ユナイテッドのファンに。当時プレミア下位に沈んでいたシティの存在は目に入らず、後に事実を知り大いに落胆。ここ数シーズンは2人が歓喜する姿を複雑な心境で見つめています。

ツイッター:https://twitter.com/inumash

 

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宇都宮徹壱
1966年3月1日生まれ。東京出身。 東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)、『松本山雅劇場』(カンゼン社)など著書多数。『フットボールの犬欧羅巴1999-2009』(東邦出版)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。2010年より有料メールマガジン『徹マガ』を配信中。

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