怒って相手から嫌われることの二つのメリット
怒って相手から嫌われることのメリットの一つは、そういうふうに自分を厳しい環境に置くことによって、能力を向上させられるということだ。世の中の大きな成果をあげる人間が、しばしば短気で周囲から嫌われているのはそのためである。多くの人は、成果をあげている短気な人に対して「天狗になっている」と見なしがちだが、実際は逆だ。彼らは、もともと短気で嫌われ者だったからこそ、努力し、成果をあげられるようになったのだ。
怒って相手から嫌われることのメリットのもう一つは、「他人のハードルが下がる」ということである。嫌われ者というのは、周囲からの評価が下がる。人は、嫌いな人を無能だと見なす性質があるため、「何をやってもダメなやつ」という先入観を持つのである。つまり、評価のハードルが下がるのだ。そのため、少しでも能力を見せつけると、とたんに評価が上がる。人は、もともとダメな人間だと思っていた相手にちょっとでも長所が見つかると、とたんに評価を逆転させる。少女マンガにおける恋愛も、最初は「嫌なやつだ」と思っていた男の子が実は良い人だったというパターンがほとんどだ。
これは、「競争」にはとても有利に働くのである。面白いことに、人間にとっては好き嫌いの感情と能力の評価というのは、真逆の場合も少なくない。人は、嫌いな人の能力が高いということを、比較的すんなりと受け止められるのである。なぜなら、人間は「交換条件」という概念に強く縛られているからだ。そのため、嫌いな人の能力が高くても、「あいつは嫌われている分、能力が高いのだ」と納得してしまうのである。
このように、短気な人というのは、他者から能力を評価されやすいという利点がある。これに、最初の「自分の能力を高めやすい」という利点を足せば、むしろ短気になって人から嫌われることは、競争に勝つためには不可欠なことともいえる。
そこで次回は、ではどうすれば「怒れる」ようになるのか?――ということについて考えたい。というのも、世の中には怒らない訓練を積み重ねすぎたために、今ではすっかり怒れなくなったという人も少なくないからだ。また、嫌われ方にも「良い嫌われ方」と「悪い嫌われ方」があるので、それについても併せて論じていきたい。
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岩崎夏海
1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。