宇野常寛「ほぼ日刊惑星開発委員会」より

睡眠時間を削ってまで散歩がしたくなる、位置情報ゲームIngress(イングレス)って何?

一人一人の特別なゲーム体験を産むシステムと、遭遇する面白エピソード

現実とリンクしているゲームであるためか、普通のゲームでの目標にあたるものを、自分で決め、そのために努力出来るのも楽しい。僕がやって個人的に達成したものにこんなものがある。

『皇居を全部、自陣営に染める』

皇居の内堀の外をロードバイクで何周もして、ある程度まで成功。ただどうやっても皇居内――しかも通常の参賀では絶対に入れない箇所――に侵入しないと出来ないPortalがあるのだが、これは一体、誰が設置したのだろう? 流石に僕には皇宮警察の目を盗んでまで、二重橋奥のPortalをhackする勇気はなかった。ちなみに首相官邸内のWi-Fiから、Ingressにアクセスしてしまい、その結果、外部には秘密にしているルーターのIPアドレスが漏れ、一悶着という事態もあったらしい。

『隅田川の花火会場を全部緑に染める』
Ingressを初めて2週間目ぐらいに、隅田川花火大会があったため、その時までの隅田側の河畔をつないで自陣営にしようと画策。朝の4時から隅田川に掛かる橋を雨の中、山岳用のゴアテックスのレインコートを着込んで行ったり来たり。これまたある程度までは成功したのだけれども、花火大会が終わったら敵の猛反抗を受けて挫折。

『埼玉スタジアムを攻略する』
これは緑側プレイヤーの間で、都市伝説的に広まっていた話。埼玉スタジアムに、青側の有力エージェントたちの手によって作られたファームがあった(ファームとは、レベルの高いPortalが集まった場所で、強力なアイテムを入手しやすい)。

埼玉スタジアムを落とすことで、都内へ通勤している彼奴らの、首都襲撃の威力を弱めたいのだが、生半可な攻撃ではすべてを壊せないばかりか、あっという間に修復されてしまう。いつかLevelが高い仲間が集ったら、ぜひ埼玉スタジアムの攻略に行こう……というわけだ。「まるでゾウの墓場を探そうとか、ショッカー基地みたいな扱いだなぁ」と感心した記憶がある。

 

▲レジスタンス(青)側に占拠された埼玉スタジアム

 

こうした個人的なチャレンジや、不可思議な都市伝説が、街のアチコチで発生している。ガチのエージェントは、自分の庭に、Amazonで買った燈籠(税別7万円)を設置してPortalに申請していたりするとかしないとか。

そんな「自宅Portal」も、眉唾話だと思っていたら、先日、あるエージェントたちが、地方で深夜に寺の敷地内のPortalを攻めていたら、急にお坊さんが登場。門が空いているとはいえ、参拝でもない深夜の進入を怒られるかとビクビクしていたそうだ。と思ったら、「Ingressですか? まあほどほどに」と諭されたとか。僧侶でもIngressを知っているのか、さすがにブームも加熱しているなと思ったら、なんとそのお坊さんは敵側のエージェントだった。

寺を離れるやいなや、たちまちのうちにPortalを奪還されてしまう。ちなみにその坊さんのエージェント名が「アナンダ」(釈迦の弟子)。「坊さん、自宅をPortalにしているのか」「このAgentは聖お兄さん気取りかよ!」とひとしきり話題になったそうな。

架空現実のゲームではありえない巨大さのため、ハマった廃人のエピソードは単に日本に限らず、中には「私有地に電波塔をカンパで建てちゃった」という米国人プレイヤー集団もいるそうだ。

当然、アメリカの沖縄基地内にもPortalが設置されていたりするのだが、ある日本人エージェントがGoogleに「アメリカ基地内のPortalには近づけません、なんとかしてください」とお願いしたところ、「基地内に入れるエージェントの友人を作ってください」と返されたとか。こんな破格なエピソードが、世界中で枚挙にいとまがない。と同時にプレイすればするほど、こんどはエージェント同士の交流の必要性がどんどんと高まってくるのだ。

(参考リンク)
富士山Portalの攻防
http://ingress.blog.jp/archives/13302988.html

侵入不可能、防御力の高いPortal
http://ingress.blog.jp/archives/13232224.html

 

Ingress地方遠征で分かる、意外な日本の地域性

現実拡張という側面があるからか、とにかく各プレイヤーの地域性、また個々人のバックグラウンドが反映される。高レベルへと成長するには、行ったことのない場所のPortalにまで足を伸ばさなければならないため、Ingressのエージェントは、よく地方遠征をする。

 

<この後、話題は日本の地域性から「協力プレイで、ゲームから産まれる、地域中間共同体と世界とのネットワーク」「2つのゲーム思想:Googleの進む未来」へと展開! 続きはメールマガジン「ほぼ日刊惑星開発委員会 2014.10.3 vol.171」をご購読ください!

 

メールマガジン「ほぼ日刊惑星開発委員会」とは?

34評論家の宇野常寛が主宰する、批評誌〈PLANETS〉のメールマガジンです。 2014年2月より、平日毎日配信開始! いま宇野常寛が一番気になっている人へのインタビュー、イベントレポート、ディスクレビューから書評まで、幅広いジャンルの記事をほぼ日刊でお届けします。 【 料金(税込) 】 864円 / 月 【 発行周期 】 ほぼ毎日(夜間飛行では月に1度、オリジナル動画を配信いたします) 詳細・ご購読はこちらから! http://yakan-hiko.com/hobowaku.html

 

1 2 3

その他の記事

オリンピックという機会を上手に活かせたロンドンは何が違ったのか(高城剛)
iPad Proでいろんなものをどうにかする(小寺信良)
検査装置を身にまとう(本田雅一)
フィンテックとしての仮想通貨とイノベーションをどう培い社会を良くしていくべきか(やまもといちろう)
京成線を愛でながら聴きたいジャズアルバム(福島剛)
Appleがヒントを示したパソコンとスマホの今後(本田雅一)
人間関係は人生の目的ではない <つながり至上社会>の逆説的生き残り戦略「ひとりぼっちの時間(ソロタイム)」(名越康文)
父親が次男に事業を継がせた深~い理由(やまもといちろう)
意外とまだマイナー!?「二段階認証」をおさらいする(西田宗千佳)
実は「スマート」だった携帯電話は、なぜ滅びたのか ーー10年前、初代iPhoneに不感症だった日本市場のその後(本田雅一)
毎朝、名言にふれる習慣を作ることで新たな自分が目覚める! 『日めくり ニーチェ』(夜間飛行編集部)
役の中に「人生」がある 俳優・石橋保さん(映画『カスリコ』主演)に訊く(切通理作)
テープ起こしの悩みを解決できるか? カシオのアプリ「キーワード頭出し ボイスレコーダー」を試す(西田宗千佳)
4K本放送はCMスキップ、録画禁止に?(小寺信良)
中国製格安EVのダンピング問題と根源的なもの(やまもといちろう)

ページのトップへ