死を思えば、日々の過ごし方が変わる
教育としてのグリーフワークが子どもたちの教育のレベルから浸透してくれば、それは単に「看取りの場面」に留まらず、日常の僕らの立ち居振る舞いに大きな影響を与えるはずです。
例えば頼みごとをされて「面倒だな」と思ったとしても、そこでふっと「死」を意識するようになると、「明日、この人か、私か、どちらかが死ぬかもしれない」という思いがよぎる。そうすると、その出会いが一期一会であることが、より強く意識されることになるでしょう。そんな気持ちがよぎれば、相手のお願いをそう簡単にむげにはできなくなります。
実際問題、僕らが対人関係上で感じるストレスの多くは、今日も、明日も、明後日も、自分や周囲の人の命が続いていくということを前提にして生じているものです。でも、その前提には何の根拠もありません。現実には私たちはいつ死ぬかわからないし、長い年月の間には、必ず死ぬ存在なのです。
グリーフワークの本質は、個別の死を悼む方法論というよりもむしろ、「僕の命も、あなたの命も、ここに生きているすべての命がはかない、風前の灯である」という素朴な事実を、実感として「知る」ということにある、と僕は考えています。
かつては、そういう感覚は特殊なものではないし、特別に学ぶようなものではありませんでした。ところが僕らは医学の進歩や、平和の実現によって、死から遠ざかっています。、実際には僕らはいつか死ぬという事実は変わっていませんが、感覚的には「いつまでも死なない」という意識が強く、強くはびこっている。
もしそうした感覚世界に働きかけ、変化を促すようなグリーフワークができるなら、それは単に「死を悼み、身近な人を看取る」力を高めるということではなく、僕らが生きていく上での総合力を高める、本質的な意味での「教育」になりうると僕は思うんです。
※この記事は「名越康文のメルマガ 生きるための対話(dialogue)」2013年08月19日 Vol.058のうち<教育としてのグリーフケア>を元に加筆・修正を加えたものです。
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