「大人として振る舞わなければいけない」という規範が消えた
小田嶋:数十年前のサラリーマンの写真の話は興味深いな、と思いました。彼らが今の30代よりもずっと大人に見えるのは、顔の造作の問題というより、写真を撮られるときの緊張感の問題ですよね。「写真に撮られるときには、大人としての表情をたたえておかなければいけない」という意志が働いているからこそ、そういう表情の写真が残っているわけです。
そういう意味では、「大人」というのは、人格というよりも「役割意識」に近いものだったんじゃないでしょうか。
平川:そう。昔の人のほうが内面的に立派だったかどうかということはさておき、少なくとも「大人の仮面を被ろうとしていた」ことは間違いないだろうと思います。
小田嶋:それは、自分の意志で大人として振る舞おうとしていたというよりも、むしろ周囲からの圧力でそう振る舞っていた側面が強かったということですよね。私の父親の世代でも、少なくとも30歳ぐらいになったら大人として振る舞わなければいけないというふうに、周囲から追い込まれていたように思います。
でも、私の世代になるともう、30歳を超えても、そういう周囲からの「大人になれ」と追い込まれるような圧力は感じませんでした。今の30歳だと、そもそも周囲が「大人」だと思っていないぐらいではないでしょうか。
先ほどからお話している「大人のロールモデル」として皆が共有するような映画俳優なり、スポーツ選手がいないというのは、そのことを象徴的に表しています。おそらく数十年前の30代というのは、多かれ少なかれ、高倉健さんが演じていたような大人像をロールモデルとして共有していた。だから、30歳になると何となく「俺はもうおじさんだから」と覚悟を決めて、若者みたいにチャラチャラするのはやめておこう、と考えたんだと思うんです。
ところが今、テレビや映画で活躍していて、若者のロールモデルになりうる人たちって、みんな「年齢よりも若く見える」人達ばかりですからね。30歳になった嵐も、40歳になったSMAPも、みんな若者であって、大人ではない。
平川:SMAPって40歳なんですか(笑)。
小田嶋:40歳なんです。一番若い香取慎吾でも30代後半じゃないでしょうか。このことって、大きいですよね。だって「SMAPが若者なら、40歳の俺だって若者だよな」ってなるじゃないですか。でも、そうすると何が起きるかというと、ずーっと若者だった人がある日突然、ジジイになっちゃうんです。大人というか、「おじさん」の期間がほとんどなくなってしまうということですね。
その他の記事
これからの時代にふさわしい正月らしさとは(高城剛) | |
なぜ若者に奴隷根性が植えつけられたか?(前編)(岩崎夏海) | |
スマホVRの本命「Gear VR」製品版を試す(西田宗千佳) | |
日本の未来を暗示する名古屋という街(高城剛) | |
ドイツの100年企業がスマートフォン時代に大成功した理由とは?(本田雅一) | |
日本初の「星空保護区」で満喫する超脱力の日々(高城剛) | |
ファミリーマート「お母さん食堂」への言葉狩り事案について(やまもといちろう) | |
「野良猫」として生きるための哲学(ジョン・キム) | |
アーミテージ報告書の件で「kwsk」とのメールを多数戴いたので(やまもといちろう) | |
米国の未来(高城剛) | |
日印デジタル・パートナーシップの裏にある各国の思惑を考える(高城剛) | |
iPad Proでいろんなものをどうにかする(小寺信良) | |
効かないコロナ特効薬・塩野義ゾコーバを巡る醜聞と闇(やまもといちろう) | |
なぜ作家に「酒好き」が多いのか(ロバート・ハリス) | |
「銀座」と呼ばれる北陸の地で考えること(高城剛) |