「メタ視点」がもたらすもの
では、ちゃんと苦しみつつ、そこから逃げないためにはどうすればいいのか? そこで登場するのが「メタ視点」である。苦しみは、フラットな視点でちゃんと味わう一方、メタ視点で、それを冷静に受け止める。
例えば、走っていると苦しい。それに率直に向き合うと、どうしたって逃げ出したくなる。しかしそこでメタ視点――苦しんでいる自分を冷静に見つめるもう一人の自分を持つ。そして、こう考えるのだ。「この苦しんでいることが、勝利につながる。だとしたら、もう少し苦しもう」そうして、苦しさよりも勝利することのモチベーションが高まり、苦しさから逃げないようになるのである。
それが、正しい苦しみ方である。将棋の羽生善治さんは、勝負所で指が震える。駒をしっかり持てないほどだ。なぜかといえば、怖いからである。差し間違うことの恐怖から、指が震えてしまうのだ。ではなぜ恐怖心を感じながらちゃんと指せるかというと、それを冷静に見ているメタ視点を持っているからだ。羽生さんは、震えている自分の指を見て「ああ、自分は恐がっているな」と逆に気づかされるという。それほど、俯瞰的、客観的なメタ視点を持ちつつ、駒を差すのは、その冷静な視点で行う。だから、感性を損なわないまま、冷静な手を指せるのである。
ちなみに、メタ視点には一つのオマケがある。例えば、羽生さんは自分の指の震えを見て「今が勝負所なんだな」と逆に気づく。そうして「なぜ勝負所なのだろう?」と分析することで、それまで見えなかったものが見えたりするのである。つまり、手の震えや恐怖心といった「苦しむこと」が、危機を知らせるセンサーになっているのだ。そのため、それをいち早く察知でき、回避することができるのである。
このように、勝利するためにはメタ視点を作り、しかもそれを鍛え上げ、活用していく必要がある。自分の苦しみを冷静に見つめる客観的、俯瞰的なもう一人の自分を、自分の中に育んでいくことがポイントとなるのだ。
そこで次回は、メタ視点の鍛え方について書いてみたい。
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岩崎夏海
1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。
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