切通理作
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切通理作メールマガジン「映画の友よ」

『木屋町DARUMA』そして初のピンク映画!榊英雄監督ロングインタビュー

武田梨奈さんに「帰れ」と言った理由

―― 武田梨奈さんが、プレスシートに掲載された座談会で、榊監督から「帰れ」って言われたとおっしゃってますけど……。

 ほぼほぼ「帰れ」って言ってた(笑)。

特に最後のシーン(見てのお楽しみ!)は、とてもじゃないけど、所謂アクションがない分「武田もう、狂ってくれ」と。

後はもう追い込みますよね。出来事が起きた後の表情と、あと立ち姿が大事だという。

武田さんはなんか入り方が真面目なんですよ。第一歩が。
でも「第一歩を真面目にしないでくれ」っていうニュアンスを、彼女自身が……彼女、すごい素直で素敵な女優さんなんで、そこをちゃんと踏むんですよ。
でも「そこを踏むなちゅうてん」って。

そこを踏んじゃうとたぶん芝居のスイッチが入んないタイプだと思ったんで、そこをはじめからグチャグチャにしようっていう狙いはあったと思いますよね。

お芝居として、私チンポしゃぶれんねんって風俗嬢みたいなセリフ言っても「それ芝居じゃん」みたいな。「そっからもっと崩せ」っていうところでお互い悩みどころっていうか。

なんか理屈じゃないところの汗をかいて欲しいってところを、武田さんには要求したかな。

「こんなパンツはかないだろ」って演出で言っちゃうみたいな。
「女優さんに対して失礼なのかな」。他の、ある現場では失礼になるかもしれないけど、今回の現場は違うだろうと。

「お前なんでパンツはいてるんだ。そこに生パンあんのか(めくろうとする)」。「やめてくださーい」って(笑)。これが演出なんですよ。

「脱いでこいコノヤロウ」みたいな。「なんだよそれ芝居か? 脱がせろよ。いいねマネージャーさん?」。メイク、衣装にも言う。「そんなん関係ないじゃん。生パンじかにはいてこいよ。芝居でもいいからじゃねえんだからさ。考えてこいよ。水着かお前。帰れ!」って。

だから「お芝居として来ないでくれ」っていう事。

遠藤憲一さんが彼女のスカートの中を見るのは、本番だけのアドリブですからね。本番前に「榊ちゃん、変えるぞ」って。

だから楽しみにしてました。カメラの前で、「何か起こるかな」って。
で「来たー!起こったー、わあー、すごーい、はい、遠藤さんに顔寄ったー!」もうその瞬間、悩む事ないですよね。

つまり、自然と良い芝居を見ると、たぶん、カット割りって出来ちゃうんだなっていう、例でした。それはやっぱりお互いの波長というか。

それこそ武田さんもビックリしたんじゃないですか。ホントの生パンだったから。
なおかつ身体にズルズルズルって遠藤さんが這ってきて、“清純派・武田梨奈”が(笑)。

―― つまり生パンになった上で覗かれた。本当に驚いた顔になっている。

 そう。つまりあそこで、スカートの中に頭を入れるという段取りはなかったんで。
彼女自身はたぶんそういうことにならないと思ってたし、あそこまでズルズルズル臭いを嗅いでくるとは思わなかった(笑)。

 

女優という職業を信じていない

―― 『捨てがたき人々』の時も、ヒロイン京子役の三輪ひとみさんがインタビューで、共演の男優さんのテンションの中に入っていくのが大変だったって語っておられましたよね。

 たぶん僕は女優に対して色んな意味で嫌悪感があるんじゃないですかね。
なんかね、信じてないんですよ。女優っていう職業を。あんまり。
「それでいいと思ってんのか、この女が、メスブタめ」「ブタ、ブス、何やってんだよ。つまんねえ芝居すんじゃねえよ」ってね。

三輪さんも多分、僕の事がトラウマになってると思いますよ。映画終わって一年ぐらいは、二度と会いたくないぐらいに。

『捨てがたき』では主演の大森(南朋)さんと僕の関係性がまた濃厚だし、俺がカメラ通じて大森と愛情交換を戦ってるのに、共演者で主役の一人なのに三輪ひとみさんを愛せなくなるのが嫌じゃないですか。

でも俺流に愛するにはどうしたらいいかって迷ったんですよ。じゃ俺の方の感情ぶつけようと。「俺の京子は違うんだ、バカヤロウ」とかってところから入るみたいな(笑)。

それはまあひどいですよねえ。

―― 女優さんは置いて、男だけで行くよりは、ぶつけた方が良いっていう。

 もちろんそうです。そういう意味では、女優さんに対しての演出がまだ、見えないままですよね。

出来れば次の現場ぐらいではエレガントに「××君、いいよ」「君の芝居、素敵だよ」って言って、淡々と撮りたいですよ。たぶん無理だと思うんですけど(笑)。

 

ピンク映画で男の復権

―― 『オナニーシスター/たぎる肉壺』の方は、ピンクで女優さんメインですが、そういう意味ではいかがだったんでしょうか。

 ああ、もうボロクソ言いましたからね。「ブス、このやろ、お前何やってんだよ」「お嬢様な芝居すんなよ、股開け!」とかって。

主演の三田(羽衣)さんが、ドマゾな子だったんですよ。「ハイ。監督!」って。

「お前何してんねん!想像じゃなくて、なんか生を、ライブを見せてくれよ。お芝居ごっこじゃないんだよ。特に男と女の裸を撮るというのは、こういう事なんだ」って、俺自身が(脱ぐ仕草して)素っ裸になって「こういう風にするんだ!こうだ!こうだ!」みたいな。「わかったか!」って。

そんな恥ずかしさなんか要らない。みんな脱がなきゃしょうがないじゃんっていうところでした。

だから彼女はもともとグラビアとかレースクイーンやってて、ある意味初主演で、初脱ぎって事になっちゃいますけど、ホント見事なお芝居でしたし。

ラストのカットは……「三田よお、これどうやってもあなたの残りの女優人生の中で、このラストカットを超えるカットは絶対ないよ」と。HS(ハイスピード)で撮ってる。今度大スクリーンで見て下さい。たぶんないと思う。あの車の後部ドアがぱーっと開くところ。一生に一度しかないから、あの顔撮った時、あの映画は勝ったと思う。

―― 女の人が元気なピンク映画で、セックスでも女の人が能動的になる作品だと、どうしても男がその分元気がなくなるじゃないですか。
だけど、この映画は後半、車椅子のおじいちゃんが立ち上がって、バンバンやりだす。そこがすごい新鮮でした。

 そうそう。普通そこ(女が元気で男に逆襲)で終わるよねって、脚本の三輪(江一)と話してて。「でもここで終わるの、つまんないよね」って。車椅子のオヤジがさ、昔全共闘時代にさ、たぶんそういう革命派だったんだよ。

その男がなぜかカップヌードル見た瞬間に覚醒して、現役に戻るんだ。で、なぜか軍服だな。
それは時代を設定させないで、ツッコませないためですね。

その瞬間に、男目線で「女ども並べ。西洋かぶれのメスブタが」みたいなことを言うんだよ、みたいな話になって。最後に、要は男の復権みたいな。

あれはたぶん僕の願望ですし、恥ずかしい話、女性を3人四つん這いにして、交互に男性が女性を抱くってとこって、確実に僕の妄想なんですよね。

でもあれなかなかない画、シチュエーションじゃないですか。
立てこもるって。

―― 別荘に立てこもって、窓の外指差して「発射!」って号令して、女性をバックで貫くって、あの発想はピンク映画でも見たことないです。

 (笑)「明るく楽しいオーピー映画」にして欲しいと言われたんで、じゃあ「明るく楽しいピンク映画にします」って言って。

そういう意味では、なまなましいところと、おふざけなとこありますけどね。

堂々と、女性の裸も遠慮せず撮りましたし。男性陣もみんな、カラミもやってくれましたし。

オチとしては、どっかの自由な場所を求めて車で、全裸の女性と、おじいちゃんが男に戻って「行くぜ!」って言って、最後きれいに逃げ去るんですよ。
なんかそういう、ノーマンズ・ランド……自由な土地に行く。空想上でもいいから、そういう風に、最後、上に上がってきてほしいなっていうのはあったんですよね。

好きでした、あれは(笑)。

 

ピンクを嫌がる役者に殺意

 でも、どうしてもピンクだと「えー?ピンク?」って、男優も女優も「やるとCMやテレビ出れづらくなるんで……」って言うやつだらけでした、ほぼ。

―― 事前に会った役者さんが、ですよね。

 「腑抜けが」って。

逆に俺があのおじいちゃんのようになるしかない。
「お前、俳優だろ? コノヤロウ。それで乳さらしてどうのこうのでCMがなくなるとかなんとかっていうことが俺はまずわからない」と。

「30も過ぎて……20も後半なのにくすぶってる男優女優がどこかでブレイクスルー作るとしたらここで勝負かけないわけないだろ。つまんない作品になるわけないじゃん」

そこにノるかそるかの仲間が、あのメンバーなんですよ。

つまり、役者も結局そういうところでみんなもう毒されているというか。

いいんです、たぶんCM出たいだろうし、テレビにも出たいだろう。

「でも、よく考えてごらん。その1本ごとにお前の役者人生が潰れるわけがないよね」

想像力がたぶん貧困なんですよ。
「CMとか出たいんで」とか言われると、僕の心の中で殺意を感じましたね。面接の最中で「死ねば」という。

「じゃ来るなよ。お前なんのためにやってんの? CMのために男優女優やってんの?」みたいなことはありました。

だからやっぱり「ピンク」という色眼鏡になるのはどうしてもしょうがないですよ。男と女のまぐわいが多いし。

でもそれは映画の中のピンクというイメージだったんで、俺の現場は、そうだとしても映画として撮るし、全然それは関係ないよねって。

男と女のまぐわい以外は自由なんで。
それこそ自由にオリジナルで脚本書けるっていう、我々からすればうれしい現場なのに、初めっから役者がそういう後ろ向きな姿勢ならそれはかまわない。やりたいと志願してきた人と面接して決まったというか。

だからピンク映画をそういう目で見てる役者陣が多いっていうことですよね。

結局自分でキャリアを想像できない。打破するためのポイントもわからない。演者という事のプライドも誇りもない人も多い。
そういう人には厳しくなるかもしれませんね、現場でもね。

でも素敵ですよ。出てくれた三田羽衣さんも。西野翔さんも。あと柴やすよっていう、僕の後輩女優も初脱ぎやってくれましたし。逆に「大丈夫?」って訊いたら「ピンクですから、榊組ですから」って。

今度またピンクやるんです。大作ですけど。撮らせて頂く機会を下さるそうなんです。

―― そうなんですか!(ここで榊監督からピンク第2作の構想、その斬新なアイデアを伺いましたが、残念ながら現段階では未公表。またの機会に!)

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切通理作
1964年東京都生まれ。文化批評。編集者を経て1993年『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』で著作デビュー。批評集として『お前がセカイを殺したいなら』『ある朝、セカイは死んでいた』『情緒論~セカイをそのまま見るということ』で映画、コミック、音楽、文学、社会問題とジャンルをクロスオーバーした<セカイ>三部作を成す。『宮崎駿の<世界>』でサントリー学芸賞受賞。続いて『山田洋次の〈世界〉 幻風景を追って』を刊行。「キネマ旬報」「映画秘宝」「映画芸術」等に映画・テレビドラマ評や映画人への取材記事、「文学界」「群像」等に文芸批評を執筆。「朝日新聞」「毎日新聞」「日本経済新聞」「産経新聞」「週刊朝日」「週刊文春」「中央公論」などで時評・書評・コラムを執筆。特撮・アニメについての執筆も多く「東映ヒーローMAX」「ハイパーホビー」「特撮ニュータイプ」等で執筆。『地球はウルトラマンの星』『特撮黙示録』『ぼくの命を救ってくれなかったエヴァへ』等の著書・編著もある。

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