返済しなければならない奨学金を巡っての論争は、私が大学生のころから度々出ては消える、古式ゆかしい類の階級論争の具になりやすい案件であります。最近再び降ってわいたのも、大学自体が子供の数の減少で苦しくなる中、大学への進学率を確保するためにどんどん奨学金という名の学資ローンをぶち込む世界観が問題になっていることは間違いありません。
一方で、大学生向けの奨学金は金額にして1%程度、人数にして3%程度の人しか滞納や破産をしていないということもあって、その制度の性質も含めて金融界に慣れ過ぎていると「固定金利で年利0.4%程度の奨学金が返済できないなら大学に行くな」という議論になりやすいのもまた事実です。
さらに、金額に幅はあるものの100万円から450万円程度がボリュームゾーンになっている奨学金の返済にあたり、月額4万円程度の返済もできないような状況で大学に行くのが果たして妥当なのかという問題も横たわります。実際のところ、さほど偏差値の高くない私立大学へ進学するために学資ローンや奨学金をもらっても、返済に見合う給料が得られなければ確かに大学生の粗製乱造のための制度であり、返済無用にする本当の意味での奨学金を拡充するべきという議論に発展するのも仕方のないところです。
人材育成の観点からいえば、大学入試改革を2020年に控え、むしろ人生を通した学び方、研鑽の在り方を体得する場としての高等教育の大事さや、単に18歳19歳で大学に行くという学習のルート以外にも生涯にわたって学び続けられるための仕組みも模索していく必要が出ます。別に40歳50歳になって大学に行ったり、海外に留学したりすることも当たり前の世の中にしていくために、大学をどう改革していくのかは議論されてしかるべきでしょう。
私自身も東京大学に3年籍を置き、また地方国立大学で授業などをさせていただくたび、また家内も地方国立大学の卒業生でもあるので、日本の大学の仕組みをもう少しどうにかできないだろうか、という問題意識は強くあります。奨学金制度はこの問題に常に紐づいていて、単に大学という資格を得る場ではなく、どう学ぶ技術を身に付けるのか、それを一生続けていけるようにするかが求められていることのはずです。
翻って、自分の小学生の子供たちがどういう教育を求めていくのか、また何を為すために学ぶのか、学ぶ内容だけでなく学び方や意欲の持ち方などなど、単に奨学金をカネの問題と割り切らず、知識を社会に活かすための機能としたときどう考えるかをテーマに持った方が健全なんじゃないかと感じます。
やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」
Vol.216 奨学金論争と大学改革についての雑感、問題のありそうな仮想通貨交換業者のあれこれ、近頃なにかと叩かれる技適マーク周辺などを語る回
2018年2月16日発行号 目次
【0. 序文】終わらない「大学生の奨学金論争」と疲弊する学びの現場
【1. インシデント1】問題続発の仮想通貨交換業者問題、そのトラブルと課題
【2. インシデント2】今どきのIT機器動向と相性の悪い技適マーク問題
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
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