高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

失敗した「コンパクトシティ」富山の現実

高城未来研究所【Future Report】Vol.387(2018年11月16日発行)より

今週は、富山にいます。

先週まで滞在していたインドは、日々37度の暑さでしたが、今週滞在している富山の明け方は、6度まで下がります。
炎天下の真夏日の翌朝に、突然、気温が6度まで下がるような気候をイメージしていただくとおわかりいただけるかと思いますが、気温差に負けない体力づくりは、ハードな旅行者が乗り越えなくてはならない壁だと痛感しています。

さて、近年富山は、コンパクトシティとして注目を集めています。
戦後の高度経済成長に伴い、居住地が都市部および周辺郊外で著しく増加しましたが、人口が減少する現在、都市機能や居住地域をコンパクトにまとめる行政効率の良いまちづくり「コンパクトシティ」政策が、多くの自治体で巨費を投じられて各地で進められています。
その先頭にいるのが、富山です。

いったい、なぜコンパクト化が必要なのでしょうか?
理由は明快で、郊外化で人口密度が今の半分まで低下すると、住民1人当たりの道路や下水道等のインフラ維持費が、2倍になるからに他なりません。
こうして富山市は、先陣を切ってコンパクトシティ化へと舵を切り、2007年には、国が認定する「中心市街地活性化基本計画」の第1号に選ばれることになりました。

その代表的施策が、富山市が全国に先駆けて導入した次世代型路面電車、LRT(Light Rail Transit)です。

「ライトレール」は、富山駅北駅から同市の岩瀬浜駅までを結ぶ次世代型路面電車で、環境に配慮したモビリティシステムとしてコンパクトシティの象徴と言われますが、僕が見る限り、搭乗しているのは、高齢者ばかりです。
若年層および中年層は、地味な自家用車をいまも足にしており、その理由は、「モールに行くことができないから」と、皆言います。

これは富山に限りませんが、米国の圧力による大店法の改正以来、地方都市の中心地は、駅前ではなく、巨大モールになりました。

いくらオンラインショッピングが便利な時代になったとはいえ、様々な店舗を意味もなくブラブラ歩き、気軽に飲食を楽しみたいのは、いまも昔も同じです。
その機会は、いまやモールにしかありません。
それゆえ、モールに行くための自動車が、是が非でも必要なのです。

それゆえ、駅前にも街中にも、肝心の活気がまったくありません。

つまり、富山は失敗したコンパクトシティと冷静に見なければなりません。

かつてコンパクトシティとして、世界中のお手本になったポートランドは、市街化調整区域の制限を徹底し、街中に魅力的なエリアを再開発することに一時的には成功しました。
その後、コンパクトシティゆえ、「ホームレス天国」になってしまったのは、本メールマガジンでも再三お話し申し上げた通りです。

また、コンパクトシティの成功の鍵は、中央からの予算獲得ではなく、行政トップのセンスにあります。
現在、地価が上昇し、転入超過が続いている、と富山市政は豪語しますが、その理由は金融緩和と郊外人口(富山市が定める「居住推進地区」以外の新興住宅地)の増加であり、目指すコンパクトシティと相反するものです。

これも富山市に限りませんが、行政が「結果が見えるまでにはそれなりの年月が必要」との詭弁を言いはじめたら、その計画は末期的で、軌道修正が効かなくなってしまいます。

本来、コンパクトシティと対峙するのは、開発です。
しかし、政治家の票田が開発である以上、行政主導のコンパクトシティがうまくいくはずがありません。

机上の空論が続き、いまも郊外開発が続き、日々街中の活気が失なわれていく富山市。
活気のない冬は、実際の気温より寒く感じ、ここに、日本の縮図を見る今週です。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.387 2018年11月16日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 著書のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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