本田雅一
@rokuzouhonda

メルマガ「本田雅一の IT・ネット直球リポート」より

感度の低い人達が求める感動話

※この記事は本田雅一さんのメールマガジン「本田雅一の IT・ネット直球リポート」 Vol.039(2019年2月22日)からの抜粋です。



1月に上梓させていただいた『蒲田 初音鮨物語』ですが、さまざまな反応をいただきました。
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このように伴侶となる男性には愛されたい、人生を共に走るパートナーと、この二人のような関係を築きたい。そんなふうに言ってくれる女性も多いのですが、実は男性からポジティブな感想を数多くいただきました。

この本は“死”という誰もがいずれは迎える“とき”に対して、どのように生きていくかという「死生観」がもっとも大きなテーマになっています。

とはいえ、調子良く生きているときに「明日死ぬかもしれない」なんてことを考えたりはしません。この本の主人公のひとりである女将さんは、41歳の若さで末期ガンを宣告され、それをきっかけに伴侶である初音鮨の親方が生き方を変えていきます。

“奥さんがガンになった可哀想なご夫妻”の話に聞こえるかもしれませんが、そうではありません。ふつうに生きていれば、人生の終わりが近くなってから感じるだろう「いずれは死んでしまう」という感覚。その感覚をリアルに、しかも間近に感じたことで、どのように生きていくのか、言い換えれば「どのように自分の時間を使っていくか」を考え直すきかっけとなり、親方は鮨職人から羨望と尊敬を集める店を作り上げたのです。しかし、そうしたテーマへの感度が低い人もいます。

先日、ある“感動を伝える番組”の放送作家の方が、僕の本に共感してくれて「ぜひ番組の企画として提案したい」と言われ、初音鮨の夫妻にも確認をした上で許諾しました。もちろん、企画なんてものは簡単に通るものではありませんが、最終的に番組スタッフから挙がった声は、少し悲しいものでした。

現在の価格が高いこと(4万5000円。しかし食材費を考慮するなら、まったく妥当な価格な上、回転鮨チェーンにノウハウを無償提供したり、若手職人を指導するなどでリーズナブルに楽しめる場をたくさん作っているのですが)に加えて、「女将がガンになった鮨屋なんてたくさんあるでしょ? この店だけじゃないよ」というのです。

何が言いたいかわかると思いますが、ガンであれ、交通事故であれ、人はいずれは死にます。老衰で死ぬのが幸せなのかと言えば、そうとは限りません。突然の病気、事故であったとしても、心から満足できる人生はあるのではないでしょうか。

女将がガンになった可哀想なご夫妻ではなく、死に直面したことで生き方を変え、心からの幸せを掴みました。これは可哀想な話ではなく、幸せを掴んだ話なのです。

もっとも、毎日を忙しく過ごしている、しかも成功体験も多いだろう人気番組を制作する人たちは、こうした感覚をまだ持つことができないのかもしれません。1秒ごとの数字で勝負する人にとって、大衆に迎合することは“必要”なことでもあるのでしょう。

誰にとってもわかりやすい。誰もが感じられる。そんな感動話。なかなか難しいですね。もっとも、今回の話はそんなロマンチックなものではなく、とても現実的なものです。


(この続きは、本田雅一メールマガジン 「本田雅一の IT・ネット直球リポート」で)
 

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2014年よりお届けしていたメルマガ「続・モバイル通信リターンズ」 を、2017年7月にリニューアル。IT、AV、カメラなどの深い知識とユーザー体験、評論家としての画、音へのこだわりをベースに、開発の現場、経営の最前線から、ハリウッド関係者など幅広いネットワークを生かして取材。市場の今と次を読み解く本田雅一による活動レポート。

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本田雅一
PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

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