※高城未来研究所【Future Report】Vol.543(2021年11月12日発行)より
今週は、東京にいます。
このようなご時世じゃなきゃ住むことは一生ないだろうな、と思って東京の住処(ホテル)を銀座にしてから半年ほど経ちました。
いままで世界中の様々な都市に住んできましたが、決まって大型デパートの徒歩圏内を拠点にしておりまして、ニューヨークのミッドタウンやロンドンのナイツブリッジにも、徒歩数分で街を代表するデパートがありました。
以前、東京の拠点にしていた新宿や、昨年長く滞在していた丸の内も、大きなデパートが近くにあったことが理由のひとつです。
日本語で「百貨店」(百=数多い+貨=商品を取り扱う店)と言われるデパートで、格段、なにを買うわけでもありませんが、僕にとっては唯一接点となる「世間」に他なりません。
日本語で社会とほぼ同義で使われている「世間」とは、もともとバラモン教の概念で「煩悩などのけがれに汚染された世界のすべての存在」を意味し、これを超越することを「出世(間)」と言いました。
院政期から戦国時代までの中世日本でも(コネと忖度もあって)公卿出身の僧侶の昇進が早かったことを「出世」と言い、転じて今日も様々なシーンで用いられるようになりました。
一方、「世間」は、いまもバラモン教の概念のまま、煩悩の鏡のような世界を意味し、それを具現化したのが僕にとってのデパートです。
デパートに出向けば、季節の食べ物からファッションのトレンド、そして景気動向まで一目瞭然で、時代と共に移り変わる「世間」の欲望が見て取れます。
19世紀半ばにパリに産声をあげたデパートは、産業革命によって大量生産された品々を置く場所として定着し、常に時代の旗印として消費社会の先頭を走ってきました。
日本でも日露戦争勝利により東アジアの帝国としての地位を確立する過程で西洋に遅れをとらないよう、三井と越後屋による三越呉服店が日本初となるデパートメントストア宣言を掲げ、呉服店から脱却し「三越」を設立。
福沢諭吉門下の久留米武士・日比翁助による「士魂商才」により、日本式デパートがはじまります。
その後、高度経済成長と共に庶民の夢を拡大させる装置として大成功。
衝動買いを誘うウィンドウ・ディスプレイやバーゲンなど集客戦術により、「必要」から「欲望」へと消費社会の大型エンジンを担い、私鉄沿線の終着ターミナルには人々を飲み込む巨大デパートが林立しました。
しかし、日本経済の衰退とインターネットの普及ともに日本式デパート=百貨店も衰退。
日本初のデパートだった三越は、販売力・企画力のある伊勢丹と2007年に経営統合し、刷新を目指します。
ですが、その後十年以上経っても、無駄を徹底的に省いて刷新したとは言い難く、社内の派閥争いや相変わらず年間1億枚以上の郵便物の送付、オンライン化の大幅な遅れと、百貨店社内にも「世間」が見て取れます。
「士魂商才」によって立ち上がった日本式デパートは、果たして大日本帝国海軍の巨大戦艦同然の運命を辿るのでしょうか?
平日はまだまだ人通りが戻らない銀座を歩くと、かつては輝いて見えたショーウィンドウが、なぜか暗く見えるこの秋です。
高城未来研究所「Future Report」
Vol.543 2021年11月12日発行
■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。
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