どうも懲罰動議となって大騒ぎになっている本件ですが、単に行儀が悪いという話ではないレベルで問題視されているので補助線でも引いてみようかと思います。
単純に、泡沫政党であるれいわ新選組が少しでも国会を含めた政治の場で目立つために、裏金問題(政治資金報告書への収入未記載)や能登半島地震の災害復興支援のための補正予算審議をネタに騒ぐ、というのは彼らなりの便法なんだろうということで、そこはまあ頑張ってるねえ、でもダメだよねえという話になります。
というのも、いちいち各議員や政党が世間的に目立つ議場でのパフォーマンスを好きにやり始めたら、もっと議員の多い自由民主党がおのおの大変な時間を喰って大混乱に陥ることになるわけですから、零細政党だからこのような秩序を乱す行為を認められるとは到底ならず、当然衛視から排除されることになります。
国会は、警察庁・警視庁による警察力が及ばない特権的な場所ですので、議事進行のために必要な手配は議長が命じることができるという点で特殊ですが、ここでいう秩序というのは、例えば昭和の時代に横行した「牛歩戦術」も現在の衆議院規則では議長職権で投票時間を制限でき、参議院では同じく議長職権で投票が打ち切られます。また、演説を長時間続けて議事進行を遅らせる「フィリバスター」もまだまだ横行していて、こちらはつい最近も立憲民主党の山井和則さんが新記録を樹立していました。いやまあやって良い決まりですから仕方がないのでしょうけれども、何してんすかね。
で、これらの問題でどうしても議論になるのは「今後、そういうポピュリズム的なアプローチで国会の議事が妨害され、早急な議会対応ができなくなることへの対処をどうするか」になります。特に、れいわ新選組のみならず特殊な主張を繰り返す政党がこだわりのワンイシューを長時間ブチかまして国会の機能が停止する由々しい事態は、既存政党に対する有権者の不信が高まる中で割と傲然と頻発する虞が否定できません。
「裏金議員」や「能登を守れ」などと大きく書いた用紙を議場で展開しアピールする行為そのものはもちろん良俗的にどうなのという話ですが、それ以上に、ワンイシューで活動するインディー政党は必ずしも裏金議員の問題や能登半島での利害には直接関係していません。問題の『乗っ取り』に値する行為に他ならず、議会のルールに則って多くの議席を持っている政党とタッグを組んで自分たちの意見を議場や委員会で主張することが求められていることを忘れています。
そして、そのような議場での不適切なアピールがネットでのオルタナティブに利用され、議場で議論すべき問題に対して逸脱したこれらの行為を賞賛する反響がネットの中で広がることを企図している場合、少数政党(今回はれいわ新選組)での活動を支援している人たちだけでなく、我が国の政治的不安定を実現したい海外勢力からの浸透をも呼び込むことになります。
特にいま問題となっているのは、中国の特定事業者がTwitter(X)やTikTokなどSNSを使って多くの政治情報を流して有権者の行動を変えさせる、認知戦に加担しているとみられる事象に対処しきれていない、ということです。もちろん、民主主義社会ですから、憲法に守られた権利に基づいて自由な発言を国民は行うことはできるのですが、一方で、必ずしもその問題に詳しいわけではない国民も、実態がはっきりしないことや、賛否が分かれることに対して明確な根拠なく意見を述べて拡散させることも可能です。
この場合、一連の政治不信ネタを呼び起こす言動について特定のクラスターがれいわ新選組のアピールに賛同し、擁護している中身を観察すると明らかに特定事業者とみられるアカウント群がSNS上で拡散していることが分かります。これらの状況を然るべき形で官民一体となってきちんとモニタリング(観察)し、海外勢力からの国内ネット世論を守るための活動をどういう形で行うのか考えていかなければなりません。
プラットフォーム事業者は、これらの問題の解決には必ずしも前向きではないのは当然で、それだけのコストをかけて不自由な情報流通になってしまえば広告ベースでもサブスクリプションベースでも収益が減るわけですから、それがどのように社会に悪影響を与えていると見られても自分から是正したり、改善したりすることはまず期待できません。
カナダでもアメリカでも裁判が起きているのはこれらの情報流通が正しいとは言えない情報に接した人たちの精神的安定を損ねる恐れがあるにもかかわらず、それと知りつつプラットフォーム事業者が運営するSNSで然るべき対応を取っていなかったとして教育委員会や州政府が訴える事案が出ていることです。
そして、これらの訴訟や、独禁当局が想定していることは概ね「煽動的で間違っている情報の流通を規制する(Regulating rapid and incorrect information distribution)」という扱いになっているので、これは日本で同じようなことをやろうとすると欧州と同じくがっつりとした新しい法体系と新法を制定・施行して周知期間を設けて守らせる方法しかなくなるようにも思われます。
同じようなことはオーストラリアでもシンガポールでも起きており、ただネットでの情報流通と社会、政府の考え方は日本と大きく隔たりがあります。日本の中で、どういう法体系のあり方が望ましいのかの議論は先日死ぬほど長い(前提となる)報告書が出て俺たちの宍戸常寿がよく分からない批判に晒されたばかりなので、みんなこんなクソみたいな火中の栗を拾いたくないためやる気が出ないんじゃないのかとも思います。
ただ、現実で起きていることは冒頭にもある通りインディー政党が何らか基地外の所業で国会すら自分勝手なパフォーマンスとした挙句にネットと輻輳して社会が不安定な方向に拠る恐れを強くすることですから、ある程度の規制は今後考えていかないといけないんじゃないのかなあとも思います。
蛇足ながら、こういう話をすると必ず新興系企業が中心となる業界団体や経済団体が規制反対の論陣を張って面倒くさいことになります。本来ならば、こういう公益的な議論から新たなデジタル社会への規制を導入する場合はネット社会に詳しい消費者団体や学術団体が正論を言って対抗しないといけないのが常なのですが(いまの個人情報保護法改正議論なんかももろにそんな感じになっていますが)、いま起きていることは「過剰な規制かどうか」ではなく「適正な規制かどうか」であって、ネット社会の奔流で国民の不安が増幅された結果、陰謀論を平気で広めて不信感を社会や政治に与えるインディー政党が定期的に興隆してくるという実態になっていることは理解するべきです。
着地点はどこなのかという議論以前に、問題認識やどのような規制が望ましいかというそもそも論のところからまだ一歩も出ていない状況ですので、何か方法ねえのかなあといつも思ってるんですけどね。
やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」
Vol.455 ポピュリズムが台頭し反ワクチンデモに有償サクラが動員される時代を憂いつつ、妙なOpenAIの動向などにも触れてみる回
2024年10月3日発行号 目次
【0. 序文】れいわ新選組大石あきこさんの懲罰動議とポピュリズム
【1. インシデント1】反ワクチンデモに有償サクラ動員から反社会的勢力までやってきて大乱
【2. インシデント2】アルトマン専制体制が確立したOpenAIはどこへ向かうのか
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
【4. インシデント3】「こんなはずじゃなかった」石破茂政権が発足したけどどうしよう問題
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