「もんじゅ」トラブルの歴史
――でも、2012年に至るまで、高速増殖炉は実用化されていませんよね。これはなぜですか?
津田:原発開発では、実際の発電に使えるようになるまで、5段階のステップを踏む必要があります。問題のもんじゅはその第3ステップにあたる「原型炉」という位置づけで、問題なく発電ができるかどうかを確かめることをその目的としています。1985年にも実用化を、と言っていたはずなのに、それから30年近く経った今も、なぜ完成する気配がないのか――高速増殖炉の実現には、さまざまな新技術の開発が必要になるんです。そこが難航している側面が少なからずあるでしょうね。
――もんじゅはいつもトラブルに見舞われているという印象があります。今までのあゆみを簡単に教えてもらえますか?
津田:そう、もんじゅの歴史はトラブル続きなんですよ。1967年、運営母体である「動燃」(現・日本原子力研究開発機構)[*5] が設立され、もんじゅの建設が始まりました。そして1994年、事実上の稼働といえる臨界状態に達した、と。
ところが翌1995年、思わぬ事故が起こったんですね。原子炉の冷却に使われるナトリウムが、配管から漏れ出していたんです。ナトリウムは水分に触れると爆発してしまう危険な物質なんですよ。
動燃側としては当然、この事件をおおごとにしたくありません。それでマスコミ対応にあたった職員に隠蔽・捏造などの工作を強要し、一人を自殺に追い込んでしまったんです。
その後、同様の事故に備えた対策工事を行い、2010年5月になってようやく運転を再開したものの、その直後に燃料漏れ検出機器の誤作動が6回にわたって発生。[*6]
同年8月には、再び大きな事故に見舞われます。原子炉容器内に重さ3.3トンの炉内中継装置を吊り上げる作業中、これが落下してしまったんです。この事故の影響で、もんじゅは運転を停止しました。[*7]
2011年に入っても事態は変わらず、同年2月に入ってからは、「復旧には約13億8000万円かかる」「いや、17億円だ」などの報道が相次ぎました。この金額が報道機関によってブレていたのですが、いずれにしても、復旧には巨額の費用がかかると見られていました。
そして同月、この装置を担当していた職員が、福井県敦賀市の山中で自殺します。もんじゅをめぐるトラブルで、2人目の自殺者を生んでしまったのです。
結局、日本原子力研究開発機構が事故前の状態に復旧したと発表したのは、今年8月8日になってから。かかった費用は総額で約21億円でした。[*8]
もんじゅの歴史を改めて振り返ってみれば、初臨界を記録した1994年から現在までの18年間で、まともに発電できた期間は、わずか4か月とも言われています。[*9] 1日の維持費だけで、1日5500万円もかかるというのに。[*10]
なお今年3月、もんじゅは今年度の電気料金を一般競争入札で公募し、13億8638万円で北陸電力と契約を結びました。つまり、もんじゅの維持にかかる電気料金は、1か月あたり1億円以上。発電のための研究施設のはずなのに、発電はほとんどせずに電気を食ってばかり……って皮肉な話ですよね。
ちなみに、仮にもんじゅを再稼働させ、高速増殖炉の実用化を進めていくとしたら、その実現は2050年にごろなるだろうとされています。これまでの経緯を見ていると、それも楽観的な予測のように思えてきますけど。[*11]
――2050年……! ずいぶん先の話ですね。
津田:しかも、高速増殖炉本体だけじゃなく、ほかの部分もいろいろ難航しているんですよ。
高速増殖炉には、「MOX燃料で発電し、使用済みの燃料を再処理して、また新たに使う」という前提がありますよね。「核燃料サイクル」と呼ばれるこうした一連のサイクルを回していくには、使用済み核燃料を再処理する工場が必要です。でも、肝心の工場がまだできていないんですよ。
青森県六ケ所村で建設中のこの工場は当初、1997年には完成する予定でした。しかし、溶融炉でトラブルが続発し、現在までに19回も予定を延期しています。本当ならば今夏にもできあがるはずだったんですけれど、この9月18日、運営会社の日本原燃が「来年10月に完成予定を延期する」と青森県に届け出たばかりです。[*12]
相次ぐ建設予定の延期で、建設費は当初想定していた7600億円の約3倍、2兆1930億円に膨らんでいます。
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