津田大介
@tsuda

中国在住フリーライター・ふるまいよしこ氏に訊く

「反日デモ」はメディアでどう報じられ、伝わったか

デモを仕掛けた中国当局の思惑とは

津田:核心に斬り込みましょう。今回の反日デモが官製デモだったとすると、中国当局にはどのような思惑があったのか。ふるまいさんはどう考えますか?

ふるまい:世間でもっとも有力な説は、「日本が9月11日、尖閣諸島を国有化したからだ」というものですよね。[*19] でも、私はそれが直接の原因では「ない」と思います。

この4月、東京都の石原慎太郎都知事が尖閣諸島購入計画を発表した [*20] 時は、中国外交部のスポークスマンも当然批判したし、中国共産党の機関紙「人民日報」[*21] などからも批判記事が出ました。

でも、ほかの新聞は追随しなかったんですよ。それがすごく不思議でした。

それで、ふだん「よく考えているな」と思っている現地メディアの記者さんたちに、7月くらいにお会いして、「なぜ書かないのか」と訊いたんです。

すると「尖閣問題をめぐっては、手垢のついた古い話しか出てこない。だから興味がないんだ」と。石原都知事の発言に興味はないのかと訊いたら、「一つの動きかもしれないけれど、だからといって何か新しい視点で書ける?」と言っていました。

中国国内には問題が山積していて、外国の話題だって書くことはほかにもいっぱいある。そっちで手いっぱいだから、尖閣問題になんて興味ない——それが前線にいる記者さんたちの感想でした。

もちろん中国当局は、「日本による釣魚島の所有を認めるわけにはいかない」と思っていたでしょう。だって、釣魚島の主権は自分たちにあると信じているんですから。[*22]

だから、折を見て日本に文句を言うつもりだったでしょうけど、大騒ぎするつもりはなかったんじゃないかと思うんですね。

津田:仮に中国が最初から大騒ぎするつもりだったとしたら、石原都知事が購入計画を発表した4月の時点でやっていた、と。

ふるまい:はい。日本政府は石原都知事の勢いに押され、結局は尖閣諸島を国有化することになりました。

実はその直前の9月9日、中国の胡錦濤主席は日本の野田佳彦首相とアジア太平洋経済協力会議(APEC)で立ち話をしています。[*23] 日本が尖閣諸島を国有化する方針を決めてから、初の接触です。

ですから、おそらくはこの時、尖閣諸島について何らかの意見交換をしたはずなんですね。にもかかわらず、それからわずか2日後の9月11日、日本は尖閣諸島の国有化を閣議決定してしまった。[*24]

それでメンツを潰された胡錦濤がブチ切れたのではないか、だから今回の官製デモを仕掛けたのではないか——私はそう考えてしまいます。[*25]

一見くだらない理由ですが、メンツ重視のこの国の体質からすると、これはありえないこともない。それが私の推理なんですけどね。

1 2 3 4 5 6 7 8
津田大介
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事。J-WAVE『JAM THE WORLD』火曜日ナビゲーター。IT・ネットサービスやネットカルチャー、ネットジャーナリズム、著作権問題、コンテンツビジネス論などを専門分野に執筆活動を行う。ネットニュースメディア「ナタリー」の設立・運営にも携わる。主な著書に『Twitter社会論』(洋泉社)、『未来型サバイバル音楽論』(中央公論新社)など。

その他の記事

素晴らしい東京の五月を楽しみつつ気候変動を考える(高城剛)
東京と台北を比較して感じる東アジアカルチャーセンスの変化(高城剛)
細かいワザあり、iPhone7 Plus用レンズ(小寺信良)
大騒ぎの野球賭博と山口組分裂騒動あれこれ(やまもといちろう)
人間はどう生きていけばいいのか(甲野善紀)
集団的自衛権を考えるための11冊(夜間飛行編集部)
結局「仮想通貨取引も金商法と同じ規制で」というごく普通の議論に戻るまでの一部始終(やまもといちろう)
グローバリゼーションの大きな曲がり角(高城剛)
銀座の通りにある歩道の意味(高城剛)
迷子問答:コミュ障が幸せな結婚生活を送るにはどうすればいいか(やまもといちろう)
「#どうして解散するんですか?」が人々を苛立たせた本当の理由(岩崎夏海)
迷う40代には『仮面ライダー』が効く(名越康文)
スマートフォンの時代には旅行スタイルもスマートフォンのような進化が求められる(高城剛)
未来を切り開く第一歩としてのkindle出版のすすめ(高城剛)
川端裕人×オランウータン研究者久世濃子さん<ヒトに近くて遠い生き物、「オランウータン」を追いかけて>第3回(川端裕人)
津田大介のメールマガジン
「メディアの現場」

[料金(税込)] 660円(税込)/ 月
[発行周期] 月1回以上配信(不定期)

ページのトップへ