小寺信良メルマガ『金曜ランチボックス』より

「13歳の息子へ送ったiPhoneの使用契約書」が優れている理由

インターネットによる知の拡大

“15.新しい音楽、クラシック音楽、あるいは全員が聞いている音楽とは違う音楽をダウンロードしてください。あなたの世代は史上もっとも音楽にアクセスできる世代なのよ。この特別な時代を活用してください。あなたの視野を広げてください。”

“16.ときどきワードゲームやパズルや知能ゲームで遊んでください。”

これらの項目には、ひとつの好みや目標に固執せず、多くのことに興味を持ち、広い視野でものごとを見、自分の可能性をデジタル技術によって広げて欲しいという親の願いが込められている。これはとかくネット規制に走りがちな保護者の中で、もっと多くの人に持ってもらいたい視点だ。

特に子どもは、俗に「ハマる」と言われるようにひとつのものに固執しやすく、それだけをやっていたい、そのほかのものは全て投げ出したいという傾向を示すことがある。特に学業や友人関係などが上手くいかないとき、インターネットが逃避先になる。

しかし、より多くの興味や可能性を自分で確保しておくことで、袋小路状態になることを回避できる。大人になっても、多くのアイデアは全然違うところからヒントを得たりするものだ。視野が広いということは、さまざまなリスクを回避するためのソースとなる。

故スティーブ・ジョブスは、アップルのコンピュータを指して、「知的自転車」と呼んだ。誰もが簡単に乗りこなすことができ、好奇心を満たすものだ。今その役割はインターネットが担うこととなった。子どもたちに低価格で提供できる知的自転車としてのiPhoneで、より遠くまで知の探索に出かけて欲しいというのが、親の願いである。

 

親子で新しい問題に立ち向かう覚悟の表明

“18.あなたは失敗する。そのときはこの携帯をあなたから奪います。その失敗について私と話し合います。また一からスタートします。あなたと私はいつも何かを学んでいる。私はあなたのチームメイトです。一緒に答えを出して行きましょう。”

最後の項目は、条件というよりは決意表明である。新しいこと、初めてやることでは、失敗する可能性はかなり高い。特に子どものほうが失敗する可能性が高いのは、似たような事例を経験したことがないため、方法論に対しての結果を予測するためのデータが少ないこと、旺盛な好奇心により、大人なら慎重になるところの歯止めが効かないことなどが上げられる。

また、子どもが体験する失敗は、親からすればまず想像ができない原因から起こり、結果もまた経験したことがない事態であることも少なくない。子育ては、「なぜこんなことを!」「なぜこんなことに!」の連続だ。

つまりそのような事態に対して、親は必ずしも正しい方法論を知っているわけではなく、その都度ケースバイケースで答えを見つけていかなければならない。なぜならば、親は子どもが生まれた瞬間に完成するのではなく、子どもを育てていく過程で親になっていくものだからだ。成長を、子どもと一緒にやっていこう、ということである。

多くの保護者が、子どもに対して圧倒的な権力で支配しようとするのに対して、このおかあさんは双方が納得いく結論を導き出す用意があることを、子どもに示している。そして遅かれ早かれ、そのチャンスは来るだろう。

これらの項目の裏側にある意味をひとつひとつ吟味していけば、この契約書は非常に今風であり、洗練されており、問題点をよく網羅しているのがわかる。13歳という年齢で初めてスマートフォンに接する子どもに対する配慮としても、妥当なものだ。

この契約書に反対している人の多くは、日本で言えば中学1年生にあたるこの13歳という年齢に対する「カン」を持っていないのではないかと思われる。MIAUのネットリテラシー授業で何度か中学1年生を教えたことがあるが、まあ有り体に言えばついこないだまでランドセルを背負っていた子どもであり、授業中もまだまだ落ち着かない。

映画「スタンド・バイ・ミー」で描かれた少年たちは、この1年前の12歳の夏を描いたものだ。4人で線路を歩いて死体探しに行くような子どもが、1年後に突然大人の分別を持つわけではない。あれは昔の話だと言われるかもしれないが、子どものメンタリティなどはそうそう変わらないのであり、だからこそあの映画は共感を呼ぶのである。

いくつまでこのようなルールが必要かという点に関しては、子どものネットへの習熟度やネットリテラシーの身につけ方を把握しながら、少しずつ大人と同じ扱いに近づけていくのがいいだろう。いつまでも同じルールであるのは子どもの成長を阻害することになるし、18歳になったとたん突然すべてを解禁されても、子どものほうが困ってしまう。

こう言うと、僕が自分の子どもにうまく対応できているように思われるかもしれないが、まったくそんなことはなく、実に多くの過ちを犯してきた。だからこそ、もっとああすればよかった、こうすればよかったというところがが見えてくる。

最初からこんな愛情に溢れたルールと共にネットの海に漕ぎ出すことができる子どもは、幸せである。

 

<この記事は小寺信良のメルマガ『金曜ランチボックス』vol.56「コラム:現象試考」より抜粋したものです。ご興味を持っていただいた方は、ぜひご購読をお願いします>

1 2 3 4 5 6 7 8

その他の記事

『趾(あしゆび)でカラダが変わる』中村考宏インタビュー(下村敦夫)
泣き止まない赤ん坊に疲れ果てているあなたへ(若林理砂)
季節にあわせて世界を移動する食のブローカー達(高城剛)
少ない金で豊かに暮らす–クローゼットから消費を見直せ(紀里谷和明)
どうせ死ぬのになぜ生きるのか?(名越康文)
クリエイターとは何度でも「勘違い」できる才能を持った人間のことである(岩崎夏海)
41歳の山本さん、30代になりたての自分に3つアドバイスするとしたら何ですか(やまもといちろう)
iPad Pro発表はデジタルディバイス終焉の兆しか(高城剛)
Hagexさんの訃報に関して(やまもといちろう)
「いままでにない気候」で訪れる「いままでにない社会」の可能性(高城剛)
6月のガイアの夜明けから始まった怒りのデス・ロードだった7月(編集のトリーさん)
『赤毛のアン』原書から、アイスクリームの話(茂木健一郎)
「小学校プログラミング必修」の期待と誤解(小寺信良)
猥雑なエネルギーに満ちあふれていた1964年という時代〜『運命のダイスを転がせ!』創刊によせて(ロバート・ハリス)
廃墟を活かしたベツレヘムが教えてくれる地方創生のセンス(高城剛)

ページのトップへ