総ブラック社会はやっぱり回避しないといけないよね~~『人間迷路』のウラのウラ

「どうやって読み手とコミットしていくかが大事」というお話

井之上:「しくみを伝えたい人」って記号的に伝える人が多いと思うんです。例えば、モノを作るAさんがいて、モノを売るBさんがいて、Cという銀行があって……といったようにシンプルな事実を羅列して、「こういう構造だからこうなります」ということを伝える。そういうことが得意な人はたくさんいると思うんです。

でも、やまもとさんの場合は、そこに物語がかぶさってくる。オンリーワンの話をしながら、「しくみ」の話もしている。これをしていただくと、分かりやすいんだけれども、熱量が高いということになる。これをバランス良くできる方はなかなかいません。熱量が高いものを書ける人というのは、結局何を言いたいのかイマイチよく分からない場合が多いし、「しくみ」をキレイに説明できる人というのは、その「しくみ」を別に知りたくないという人まで惹きつけるような熱量がない。

やまもと:そこについては、語弊を恐れずに言うと、井之上さんが声をかけてくれなかったら、自分のメルマガはここまで成功しなかったと思っているんですよ。

井之上:どういうことでしょう?

やまもと:最初に、「ラジオで話すように、文章を書くといいと思いますよ」とアドバイスしてもらったときのことを非常によく覚えているんです。場所はこの僕の事務所だったと思うんですけど、あのときに井之上さんがおっしゃったことを僕はそのままやっているつもりなんですよ。たぶんそれが当たったんです。

ただもちろん、取り扱うテーマや親近感の作り方、ユーザーさんからのメールに対する対応は自分で努力をしているんですけれども。

最初にある程度数字がとれて、きちんと評価が回るようになったのはとても幸いなことだったと思います。一定の数の読み手さんがいながら、僕が書くからこそ意味がある媒体を作ることができた。今、編集をお願いしている神田桂一さんが非常に柔軟な人だったのも幸運でした。書くことに専念できますからね。もし、最初に他社さんではじめていれば、どういう動きになったか分からなかったなと思っています。

だから、実は4社くらいから「うちで配信させてもらえませんか」と言われているんですが、「ちょっと今の環境に満足しているんで」みたいな話になるんですよ。まあ、プラットフォーマーからすると「売れ線が欲しい」という理屈で来るんでしょうね。ただ、僕がうまく数字を取れたのはプラットフォーマーさんが持っている感覚をコンテンツの根底のところでうまく使ったからだと思っているんですね。だから、新しいプラットフォーマーさんが来るときには、夜間飛行さんのメルマガとは違う立ち位置とテーマを僕に与えてくれて、棲み分けができるのであれば考えます、という話なんですよ。例えば、「動画を配信できます」とか、「あなたの専用ページができます」とかは、あくまで見せ方の手段ですから、それとは違う角度でお話をいただけるとありがたいなあと。

僕としては今の体制で引き続きやっていくなかで、見えてくる地平線があるんだろうと思っています。

井之上:褒め殺しをされているわけですが(笑)、やまもとさんは、ブログやYahoo!個人、cakesなどのウェブ媒体やそれから紙の書籍など、メルマガ以外でも発信媒体をたくさん持っているわけですが、その辺りの棲み分けについてはどのように考えているのでしょうか。

やまもと:cakesは完全に「文芸」の方向にシフトさせています。実は僕、今までペンネームでテレビ局のドラマの仕上げやシナリオライティングの手伝い、果てはゲームやラノベの設定や企画といったものをかなりの本数書いてきたのですが、これからは実名でやっていこうと判断しているんですね。その媒体としてcakesさんがぴったりかなと。だから、そちらはそちらで成長していきたいなと思っています。
https://cakes.mu/series/972

本については、「本って、割に合わないな」と思い始めてしまっています(笑)。それでなかなか食指が動かなくなってしまって……。そんなことではいけないんですけどね。割に合うかどうかで言うなら、「じゃあ、無料で書いてるブログをやめろよ」という話なんですけど、ブログはブログで自分のオリジンなので続けたい。

そういった意味で、自分が表現したいものに合わせて、それぞれに合った媒体と一緒になって読者さんと近いところでやっていく。そういうことを最近は心がけてやろうと。結局、それぞれのメディアの中で、どういう方向性で読者にコミットしていくかを、きちんとお話させてもらってコンテンツを作っていくことが、ものすごく重要なんだと感じています。

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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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