城繁幸
@joshigeyuki

期間限定公開! 新刊『「10年後失業」に備えるためにいま読んでおきたい話』

【第2話】波乱の記者会見


「新監督は山上大作に内定いたしました。コーチ陣の人選も彼に一任しております」
「山上?  誰だっけ?」

そんなに野球には詳しくない渡辺は知らなかったが、東スポのベテラン記者が教えてくれた。

「横須賀ベイブルース往年の名野手だよ。まあ盗塁とか守備で貢献してたから、あんまり知名度はないけど、功労者という点ではいいんじゃないかな。ただ、指導者としてのキャリアは未知数だが......」

大人しい経済部記者と対照的に、さっそくスポーツ紙記者が手を上げる。

「どうも。報知です。山上氏は監督どころか、ごく短期間二軍コーチの経験があるだけだと伺っています。そういう未知数の方に、過去の功績という理由だけで新生チームの舵取りを任せるのは安直だと思いますが......」

「安直? 実績のある人に後々ポストで報いること(※3)の、どこが安直だというのですか? 組織のために20年以上汗を流してきた方にポストで報いつつ、知恵やノウハウを後進にお伝えいただくというのは、日本が世界に誇る伝統文化であります。だいたい、小泉改革やら何やらで(※4)年長者を蔑(ないがしろ)にするようになってから、日本はおかしくなりはじめたのです」

東スポ記者が渡辺にそっとこぼした。

「山上さん、確かに 歳で引退するまで、一貫して横須賀在籍だったんだよな。まあ地味過ぎて他から声がかからなかっただけなんだけど」

渡辺は一瞬、まるで春闘のリリースを聞いているかのような錯覚をおぼえていた。これは本当にプロ球団の会見なのだろうか。さらに、古賀が説明を続ける。

 

 

※3 実績のある人に後々ポストで報いる/若い頃は安月給でコキ使い、40代以降に出世で報いるという年功序列の本質のこと。処遇に不満があり転職しようとする若手を慰留する際に上司がよく使うロジック。もちろん、40代になって騙されたとわかっても騙した上司は既に定年退職しているはず。詳細は拙著『7割は課長にもなれません』参照。

※4 小泉改革/ 2001年に総理に就任した小泉純一郎政権下での一連の政策を指すが、なぜかその後に起きた悪いことすべての元凶にしたがる困った大人が少なくない。

用例 「小泉改革の後、日本はさらに貧しくなった」

なお、こういう困った大人には「民主党と社民党が政権についたせいで日本はさらにさらに貧しくなりましたよね?」という返しが極めて有効であり、そのロジックを編み出したことが民主党政権唯一の功績であると思われる。

 

1 2 3 4
城繁幸
人事コンサルティング「Joe's Labo」代表取締役。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種メディアで発信中。代表作『若者はなぜ3年で辞めるのか?』『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』『7割は課長にさえなれません 終身雇用の幻想』等。

その他の記事

「お前の履歴は誰のものか」問題と越境データ(やまもといちろう)
「価値とは何かを知る」–村上隆さんの個展を見ることの価値(岩崎夏海)
萌えセックス描写溢れる秋葉原をどうするべきか(やまもといちろう)
「常識」の呪縛から解き放たれるために(甲野善紀)
遊んだり住むには最高だけど働くのは割りに合わない日本(高城剛)
ひとりの女性歌手を巡る奇跡(本田雅一)
依存癖を断ち切る方法(高城剛)
『犯る男』朝倉ことみさん、山内大輔監督インタビュー 「ピンク映画ってエロだけじゃない、こんなすごいんだ」(切通理作)
都民ファースト大勝利予測と自民党の自滅について深く考える(やまもといちろう)
IR誘致に賭ける和歌山の今が象徴する日本の岐路(高城剛)
メディアの死、死とメディア(その2/全3回)(内田樹)
数年後に改めて観光地としての真価が問われる京都(高城剛)
この時代に求められるのは免疫力を高め、頼らない「覚悟」を持つ事(高城剛)
バーゲンプライスが正価に戻りその真価が問われる沖縄(高城剛)
ウクライナ問題、そして左派メディアは静かになった(やまもといちろう)
城繁幸のメールマガジン
「『サラリーマン・キャリアナビ』★出世と喧嘩の正しい作法」

[料金(税込)] 550円(税込)/ 月
[発行周期] 月2回配信(第2第4金曜日配信予定)

ページのトップへ