「新監督は山上大作に内定いたしました。コーチ陣の人選も彼に一任しております」
「山上? 誰だっけ?」
そんなに野球には詳しくない渡辺は知らなかったが、東スポのベテラン記者が教えてくれた。
「横須賀ベイブルース往年の名野手だよ。まあ盗塁とか守備で貢献してたから、あんまり知名度はないけど、功労者という点ではいいんじゃないかな。ただ、指導者としてのキャリアは未知数だが......」
大人しい経済部記者と対照的に、さっそくスポーツ紙記者が手を上げる。
「どうも。報知です。山上氏は監督どころか、ごく短期間二軍コーチの経験があるだけだと伺っています。そういう未知数の方に、過去の功績という理由だけで新生チームの舵取りを任せるのは安直だと思いますが......」
「安直? 実績のある人に後々ポストで報いること(※3)の、どこが安直だというのですか? 組織のために20年以上汗を流してきた方にポストで報いつつ、知恵やノウハウを後進にお伝えいただくというのは、日本が世界に誇る伝統文化であります。だいたい、小泉改革やら何やらで(※4)年長者を蔑(ないがしろ)にするようになってから、日本はおかしくなりはじめたのです」
東スポ記者が渡辺にそっとこぼした。
「山上さん、確かに 歳で引退するまで、一貫して横須賀在籍だったんだよな。まあ地味過ぎて他から声がかからなかっただけなんだけど」
渡辺は一瞬、まるで春闘のリリースを聞いているかのような錯覚をおぼえていた。これは本当にプロ球団の会見なのだろうか。さらに、古賀が説明を続ける。
※3 実績のある人に後々ポストで報いる/若い頃は安月給でコキ使い、40代以降に出世で報いるという年功序列の本質のこと。処遇に不満があり転職しようとする若手を慰留する際に上司がよく使うロジック。もちろん、40代になって騙されたとわかっても騙した上司は既に定年退職しているはず。詳細は拙著『7割は課長にもなれません』参照。
※4 小泉改革/ 2001年に総理に就任した小泉純一郎政権下での一連の政策を指すが、なぜかその後に起きた悪いことすべての元凶にしたがる困った大人が少なくない。
用例 「小泉改革の後、日本はさらに貧しくなった」
なお、こういう困った大人には「民主党と社民党が政権についたせいで日本はさらにさらに貧しくなりましたよね?」という返しが極めて有効であり、そのロジックを編み出したことが民主党政権唯一の功績であると思われる。
その他の記事
|
伊達政宗が「食べられる庭」として築いた「杜の都」(高城剛) |
|
無風と分裂の横浜市長選2017、中央が押し付ける「政策」と市民が示す「民意」(やまもといちろう) |
|
2020年の超私的なベストアルバム・ベストブック・ベストデジタル関連アクセサリー(高城剛) |
|
隣は「どうやって文字入力する」人ぞ(西田宗千佳) |
|
決められないなら、委ねよう(天野ひろゆき) |
|
やまもといちろうのメールマガジン『人間迷路』紹介動画(やまもといちろう) |
|
梅雨時期に腸内環境の根本的な見直しを(高城剛) |
|
ゲームを通じて知る「本当の自分」(山中教子) |
|
オーバーツーリズムに疲弊する観光都市の行方(高城剛) |
|
創業メンバーをボードから失った組織の力学(本田雅一) |
|
安倍政権の4割近い支持率から見えること(平川克美) |
|
MacBook Proをサクッと拡張する「QacQoc GN28G」(小寺信良) |
|
変化のベクトル、未来のコンパス~MIT石井裕教授インタビュー 後編(小山龍介) |
|
細かいワザあり、iPhone7 Plus用レンズ(小寺信良) |
|
「夢の国」に背徳が登場する日はやってくるのか(高城剛) |











