ユングをタブー視するアカデミズムの現場
今ではいくつかの大学で「エソテリシズム」研究として立派な学問として確立してきているが、ぼくの学生時代にはそうではなかったのだ。 たとえば、ユングにしてもそうだ。日本では臨床心理学の世界ではユングはビッグネームだが、アカデミズム一般では必ずしもそうではなかった。
ユングといえば、占星術などにも手を出した怪しげな人物であり、それをまじめに研究するのはなんとなくタブーだという雰囲気もあった。 実際、大学時代には、教員の一人はユングに関心を持っていたぼくに、ユングから手を切れと迫ったものだった。 今でも覚えているが、「私をとるか、ユングをとるか、選びなさい!」と言い放ったのである。今の状況なら、完全なアカハラであろう。
当時はこういう指導もアリだったし、それは先生なりに真剣な姿勢であったので、まあ、大人になった今となっては感謝もしているけれど……。 若いころの自分に何かが言えるとすれば、「ユングと自分を比べるなんて、ずいぶん、偉大な先生なんですね」と嫌みのひとことでも返してやれ、といいたい(笑) ともあれ、先には何があるかわからない。今のトレンドだけを追いかけていたのでは、将来は開けないのだと思う。
世間に馴染めない人が、世界の多様性を支えている
マイナーな世界はある意味、ニッチな領域でのサバイバルができるチャンスでもある。もしあなたが何か、今、世間とちょっとずれているとか、理解してくれる人が少ない、とか、この世界に違和感がある、というのなら、それは逆に大きなチャンスだと思えばいいのだ。
世間への適応も大事だけれど、完全に適応しているというのは、マーケテイングされているということだけでもある。 そのことにぼくが気がついたのは、昔、青山ブックセンターでのこと。東京に出てきたとき、青山ブックセンター六本木店の人文書のコーナーには魅力的な本がずらりと並んでいて、若かった自分は大興奮。 「いつか大人買いしたい」と思い、足繁く通ってはいたが、あるときにハタと気がついた。これでは完全にまんまとマーケテイングされているということじゃないか、と。
そしてそのがっかり感を受け入れつつ、別な本の探し方もするようになったのだった。
それは何も、学問や勉強の世界に限ったことではないと思う。何でもそうだ。生態系には多様性が大事なわけで、人生にたいしての違和感や不自由感は、あなたがこの社会のなかでの多様性を支えているという証拠でもある。 そしてその「不自由さ」が何かへとあなたを導いてくれるのだと、ぼくは信じたい。
※この記事は「鏡リュウジメールマガジン プラネタリー夜話」2013年4月8日 Vol.042<不自由さが未来を拓く?>を元に再構成したものです。
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