城繁幸
@joshigeyuki

城繁幸メールマガジン『サラリーマン・キャリアナビ』★出世と喧嘩の正しい作法より

就活解禁になっても何やっていいのかわからない時に読む話

「育成のプロセス」を知れば、やるべきことは見えてくる

世界には、2種類の就職があります。一つは、ある特定の職に対して雇用契約を結ぶもので、当然、応募者はその職務がこなせるだけのスキルなり職歴があるかどうかで判断されます。こちらが世界標準で、日本でも非正規雇用や現場系の職人さんはだいたいこちらですね。

一方、その会社の正社員という身分に応募するという雇用契約もあります。こちらは組織の一員として言われた勤務地で言われた仕事を何でもこなすことが要求されます。なので、何か特定のスキルというよりも、組織のために粉骨砕身がんばれるかどうかが重視される傾向があります。戦後の長い間、日本企業の多くはこちらの採用スタイルでした。

たとえば90年代前半までは、六大学以上の体育会系だったらたとえ成績が落第寸前でも「はい!なんでもやります」と元気よく答えておくだけで、たいていの上場企業には内定がもらえたものです。筆者の先輩にボート部で3留して面接で「はい!わかりました!」しか言わなかった人がいましたけど、普通に商社受かってましたね。たぶん地頭的に悪くないにもかかわらず7年間なんの疑問も抱かずにボート漕いでたMっ気が入社後も大いに役立つと評価されたんでしょう。

とはいえ、いまどきそんなノリで内定がもらえる会社はほとんどないでしょう。応募者はエントリーシートや面接で繰り返し自らのキャリアデザインとそのためにしてきた自己投資を述べねばなりません。そう、日本社会全体が緩やかに、何でもやる根性重視の身分制度型から、特定の職種に絞ったスペシャリスト型に移行しつつあるわけです。いわゆる「意識が高い人たち」というのはそういう波になんとか乗ろうとしている人たちなわけです。

では、3月時点で、そうした波にぜんぜん乗れてないよという人たちはもう手遅れなんでしょうか?「いやあ、今までバイトとゲームとサークルしかやってこなくて、いきなり就活やれって言われて困ってるんです」という人は、トロール網よろしく100社以上エントリーしまくってなんとか引っかかってくれた会社に「何でもやります、いや、やらせてください」と頭を下げるしかないんでしょうか?

いえいえ、勝負はこれからです。先に、社会は緩やかに脱・身分制度型に舵を切っていると書きましたが、現場レベルではまだまだ変化に追いついておらず、実際は90年代とほとんど変わらない人材育成方式だったりする企業が珍しくありません。その育成プロセスを理解すれば、打つべき手は見えてくるはず。

従来型の育成スタイルでは、本人のなんとなくレベルの配属希望と人事部の判断を組み合わせてとりあえず大まかな配属を行います。なので、最初の3年間は割と流動的で、本人がどうしても納得しない、あるいは使ってみたけど適性が無いと事業部側で判断したような場合は異動、つまり実質的な再配属なんてこともありますね。

その後は、職場内で上から仕事を与えて少しずつ育成、30歳までに、組織の必要とするスキルを持った企業戦士に育て上げることになります。と書くと当たり前の話にも見えますが、実は、この過程ではもう一つ、スキル以外にも重要なモノを育て上げています。

それは“動機”です。自分は今のこの仕事で飯を食っていくんだというプロフェショナルとしての動機。それから、自分は今の業務にもっと習熟して上を目指したいという上昇の動機、あるいはその経験を活かして組織全体や社会を変えていきたいという改革者の動機。そうしたアグレッシブで前向きな動機は、新人の頃にはまったく見られなかったもの。それを最初の数年間で芽吹かせることが、日本型OJTのもう一つの狙いだったりします。

つきつめれば、職を重視するスペシャリスト型採用も何でもやる身分制度型採用も、目指すゴールは同じと言えるでしょう。「〇〇の仕事で頑張りたい」というコアな動機を入社前に持っているか、入社後にある程度幅広く経験させつつ、本人の適性と会社の都合を上手くすり合わせて与えるかの違いですね。

となれば、やるべきことはただ一つ。入社後数年かけて経験するであろう仕事の幅、それらの達成感、あるいは挫折感などを、これからの5か月で可能な限り先取りして吸収し、動機のひな形くらいは自分の中に作っておくことです。

もちろん、企業の形成する母集団に登録することも重要ですが、筆者なら合わせてOB訪問を重点的に行います。数は多くないですが、4年生向けのインターンも春、夏に行われているので、そういう機会を利用することも検討します。それらをうまく組み合わせることで、スキルと動機をまさに育てつつある先人たちの“息吹き”を自身も感じることが出来るはず。

ここで重要なのは、あくまでも現場で働く人たちの生の声が必要だという点です。日本企業のインターンシップには、半日〜数日レベル、それも研修施設などを使った“お客様インターン”が多くみられます。そういうのは何十回行っても、自己啓発本を読んで「あ〜なんか俺成長した気がするな」と思わされてしまうのと同じ程度の効果しかありません。

また、OB訪問も、企業側が組織して送り込んでくるリクルーターよりも、顔見知りの先輩や、キャリアセンターにある卒業生名簿などを使って自分でコンタクトをとったOBの方が価値があります。というのも、向こうからやってくるリクルーターは人事部がコミットしていて、テキパキこなれた対応はしてくれても、必ずしも本人の生の声を聞かせてくれるとは限らないからです(そういうのを後輩のために話してくれるリクルーターもいるので一概に否定はできませんが)。

まとめると、インターンでもOB訪問でも、とにかく実際に現場で働く人の空気を吸ってこいということですね。

そういう観点から、筆者の考える最悪の3月スタートダッシュについてもまとめておきましょう。それは、とりあえず各業界の大手と呼ばれる企業に手当たり次第にエントリーしてまわることです。そして、就職フェアだの合同企業説明会だのに顔を出し、上辺だけの説明を右から左に聞き流しつつ、会社派遣のリクルーターと当たり障りのない会話をこなしつつ、なんとなく内定をもらえた会社に就職することですね(というか、いまどきそれでは内定までたどり着けない可能性も高いです)。

そういう就活を何カ月続けても、本人の中には確たるキャリアビジョンや動機は育たないでしょう。よく経済誌などの就活特集で「100戦連敗」的な刺激的なフレーズを目にします。100社以上エントリーしても内定採れない学生がいるという話です。筆者に言わせれば、100社もエントリー出来る→会社の用意した上辺情報をファーストフード感覚で吸収してるだけ→動機もキャリアビジョンもまったく成長していない→100敗して当然としか思えませんね。

というわけで、企業主導の美辞麗句の並んだ説明はほどほどにし、とにかく泥臭い情報を体で取ってくるというのが、ごく普通の凡人がこなすべきミッションだというのが筆者の見方です。

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城繁幸
人事コンサルティング「Joe's Labo」代表取締役。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種メディアで発信中。代表作『若者はなぜ3年で辞めるのか?』『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』『7割は課長にさえなれません 終身雇用の幻想』等。

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