岩崎夏海
@huckleberry2008

岩崎夏海のメールマガジン「ハックルベリーに会いに行く」より

「自己表現」は「表現」ではない

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[Q] クリエイターとして表現することになぜ否定的なのですか?

ジャズの精神の一つに「表現すること」がありますが、ハックルさんは「クリエイターとして表現すること」について否定的であると主張されていました。ジャズの表現について、ハックルさんはどのように考えておられるのでしょうか。

 

[A] 「表現」とは「自己表現」は違います

ご質問の「表現」とは「自己表現」のことでしょうか?

ぼくは、「表現」そのものは特に否定していません。というより、否定することができません。なぜなら、こうして有料メルマガを書くことも「表現」ですから、それを否定すると書けなくなってしまいます。

そこでここでは、質問にある「表現」は「自己表現」という意味として、回答させていただきます。

ぼくは、「自己表現」というものを否定しています。そしてもし、ジャズの精神の一つに「自己表現をすることがある」というのなら、それはやっぱりおかしいだろうと思います。以下に、その理由を説明します。

人間の中には、自分では制御することのできない部分があります。例えば欲望とか、衝動とか、湧き上がってくる思いとかです。あるいは、自然を美しいと思ったり、何かに感動したりする心も、誰からも教わらなくてもできますし、また制御もできません。

そういうふうに、後天的ではなく先天的に備わっている欲求や性質というものは、これはたとえ自分の中にあるものでも、ぼくは「自己」だとは考えていません。それは、むしろ「他者」、あるいは自然とか、この世界そのものの一部だと考えます。

表現者は、この世界そのものに触れる手段として、自分の中にある「この世界そのものの一部」にアクセスするという方法をよくとります。例えば瞑想がそうです。瞑想によって、人は自らの無意識にアクセスできます。自らの無意識は先天的なものなので、「この世界そのものの一部」ということができるでしょう。だから、それは自分の中にあるものを表現してはいるものの、いわゆる本当の意味での「自己表現」とはならないのです。

ジャズなどは、まさにこの「自分の中にあるこの世界そのものの一部」にアクセスすることによって素晴らしい演奏ができる、ということがあるでしょう。いわゆる瞑想状態で演奏することで、思ってもみなかったフレーズが出てくるということがあります。

しかしながら、これを「自己表現」とするのは、ぼくは大きな誤りだと思っています。ここからは少し哲学的な言い方になりますが、ぼくは、自分自身は必ずしも「自分」だけで構成されているわけではなく、「この世界そのものの一部」をはじめ、自分とは違うものも多分に含まれていると考えます。たとえ自分の中にあるものでも、それは自分ではない他者からの借り物なのです。

本当の「表現」というのは、その自分以外のものに触れ、それを表す行為のことです。それを「自己表現」とするのは、たとえそれが自分の中にあることだとしても、大きな誤りだと考えているのです。

 

岩崎夏海メールマガジン「ハックルベリーに会いに行く」

35『毎朝6時、スマホに2000字の「未来予測」が届きます。』 このメルマガは、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(通称『もしドラ』)作者の岩崎夏海が、長年コンテンツ業界で仕事をする中で培った「価値の読み解き方」を駆使し、混沌とした現代をどうとらえればいいのか?――また未来はどうなるのか?――を書き綴っていく社会評論コラムです。

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岩崎夏海
1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。

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