やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

2017年、バブルの時代に



 一年を振り返って、と言われるとどうしても暗号通貨の一連のバブル現象と行く末について思いを馳せてしまうのであります。この原稿を書いている12月25日時点でビットコイン(BTC)はいまなお100万円以上の値段がついているものの最高値からは4割近い下落をしたり、大幅にリバったりと、もはや完全なチューリップ状態です。

 個人的には、この現象を読み解くためにはエドワード・チャンセラーの名著『バブルの歴史』(日経BP)を強くお薦めするのですが、この中で語られている南海泡沫事件やチューリップバブルはいつ読んでも教育的で、また示唆に富む内容であると私は思います。

バブルの歴史 チューリップ恐慌からインターネット投機へ

 つまりは「バブルは崩壊してみないと分からない」うえに「投機的な動きは投機的な動きを呼ぶため、本来の価値や価格を考察することが無意味になる」ことが重大な事態を引き起こすと言えます。

 逆に言えば、今回のビットコイン「バブル状態」は金融業界からは危険視されますが、ICTやネット業界からは革命的な技術であるから新たな経済的な側面に到達しつつあるのだと楽観的に見る動きが強くなります。常識的には裏付けがあろうがなかろうが値段の付く相場というものはボラティリティはあれども長い目で見れば平均へと回帰していく現象があります。現在がその平均へ戻っていく特異点にすぎないのか、より拡散して未来志向に進歩していく技術革新の過程なのかは一般には判断がつきません。

 私は完全なバブルだと思っているので、不安定な相場を承知のうえで博打と思って鉄火場にいきたい人以外がこの相場が「儲かる」と思って参入することはお薦めしていません。そればかりか、前回のメルマガにも書きました通り、ビットコインの取引業者も含めて非常に問題のある取引を平気で行う状況が横行しているので、この暗号通貨相場とは別の側面で業者リスクというものが存在していると思っています。素人が手を出して濡れ手に粟になれる期間はそう長くはないというのが正直なところです。

 一方で、暗号通貨を制御できるイントラネットのような仕組みの中で完結できるのであれば、これはこれで非常に画期的な技術であることに間違いはなく、また大量のマイニングを必要としないのであれば特定の金融グループ内での国際決済のコストダウンや堅牢化などの利点は多数あるというのは事実だろうと思います。それが一般の人たちに本当の意味で利益を享受させるのは国際決済が安くなったり、銀行振り込みの手数料がなくなったりという分野じゃないかと思うのですが、なぜか暗号通貨のところだけが乱立し、いろんな通貨がパッケージとしてブランド競争をし始めると、これはもう完全な博打になるわけですから、プロでさえ大変だろうという世界であることは言うまでもないのです。

 いずれ大きな規制が入るなどして火消しがされる… のが常道ですが、ここまで加熱してしまうと当局の指導一本で市場を冷やすことはオーバーシュートのリスクがあるのでやりたがらないのが正直なところだと思います。このようなリスクの塊のような相場をいつまで放置しておくのかはなかなか判断がむつかしいところなんだと強く感じますが、このあたりは告発でもしておいたほうがいいんでしょうか…。

 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.212 ビットコインはバブルであるという話、解決の光が見えない国内ゲーム産業の抱えるガチャ問題、大きくなりすぎたSNSの社会的影響などを論じる回
2017年12月27日発行号 目次
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【0. 序文】2017年、バブルの時代に
【1. インシデント1】ネットゲームと賭博、景品表示法の問題について
【2. インシデント2】そろそろリテラシー云々だけでは事が済まなくなりつつあるSNSの社会的影響
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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