※この記事は本田雅一さんのメールマガジン「本田雅一の IT・ネット直球リポート」 Vol.055「改めて考える“ステマ”、“ギフティング”、そして情報の非対称性」(2019年10月27日)からの抜粋です。
Googleは“Sycamore”と彼らが呼ぶ量子コンピューターが、量子超越性を有したと発表して、テクノロジー業界に激震が走りました。彼らの論文によると、一般的なコンピューターであれば数千年かかるとされる処理が、Sycamoreではおよそ3分半ぐらいで計算を終えるというのです。
量子超越性というのは、キュービット(量子ビット)で処理することで、これまでのコンピューターでは解けなかった問題を解けるようになることです。つまり、理論的には優れた量子コンピューターの仕組みが実際に動作して従来型コンピューターを超越することと定義されていて、「早いか遅いか」ではなく「できなかったことができる」ようになるということなのです。
多くの企業が開発を続けている量子コンピューターは、実は米中のテクノロジー開発競争のホットトピックでもあるのですが、その理由は単に優れたコンピューターを持つことになるからだけではありません。量子コンピューターが実用化すると従来のインターネットが丸裸になってしまい、暗号化通信がまったく役立たなくなります。情報化社会において、このことはとても大きな意味があります。
現在のインターネットで使われている暗号化技術、例えば「AES128」などは、暗号を解くための計算量を大きくすることで“事実上、暗号を解く意味がない”状態にするよう設計されています。一般的なコンピューティング技術において、このアプローチは間違っていないのですが、量子コンピューターが実現されると問題を解くことができてしまうため、常識は覆されてしまいます。
耐量子コンピューター暗号という、従来型コンピューターでも扱える量子コンピューターへの耐性がある暗号技術の研究も進んでいますが、処理が重くなるのはもちろん、インターネット全体、社会全体に浸透させるのは容易なことではありません。
今すぐに何かが起きるということではありませんが、何かひとつの技術が実証されると、次々に類似する技術が生まれていくのが世の常です。Googleが成功したとうことは、これからもっと多くの企業が量子超越性を実現させていくでしょう。そしてそれは将来、インターネットセキュリティーをどうするか? という社会的な課題のひとつへとつながっていくでしょう。
もっとも、この話には続きがあります。GoogleがSycamoreの量子超越性を確認するために使った問題を、世界最速のスーパーコンピューターが解くには数千年かかると論文では結論づけられていたようですが、そのスーパーコンピューターを開発したIBMが「その結論は誤りだ」と発表したからです。
IBMはGoogleに対抗して発表したのではなく、またSycamoreの動作が不完全と言いたいわけでもありません。IBMは、そもそも設定された問題を(Summitというコンピューターのアーキテクチャに則って正しくプログラムすれば)量子コンピューターに近い性能で問題解決ができると説明しました。つまり従来型コンピューターでも解決できるのだから、量子超越性とは言えないということですね。
しかし、いずれにしろ量子コンピューターの実用化が見えてきたということは、インターネットにも変化が求められるということです。これから5G社会となって、あらゆるものが通信ネットワークの中に組み込まれていく中、どう世の中が変化していくのか、ワクワクするとともに変化が予測できなくなってきました。
(この続きは、本田雅一メールマガジン 「本田雅一の IT・ネット直球リポート」で)
本田雅一メールマガジン「本田雅一の IT・ネット直球リポート」
2014年よりお届けしていたメルマガ「続・モバイル通信リターンズ」 を、2017年7月にリニューアル。IT、AV、カメラなどの深い知識とユーザー体験、評論家としての画、音へのこだわりをベースに、開発の現場、経営の最前線から、ハリウッド関係者など幅広いネットワークを生かして取材。市場の今と次を読み解く本田雅一による活動レポート。
ご購読はこちら。


その他の記事
![]() |
いまさらだが「川上量生さんはもう駄目なんじゃないか」という話(やまもといちろう) |
![]() |
大きく歴史が動くのは「ちょっとした冗談のようなこと」から(高城剛) |
![]() |
サイボウズ青野社長の手がける「夫婦別姓裁判」高裁門前払いの必然(やまもといちろう) |
![]() |
カーボンニュートラルをめぐる駆け引きの真相(高城剛) |
![]() |
議論の余地のないガセネタを喧伝され表現の自由と言われたらどうしたら良いか(やまもといちろう) |
![]() |
週刊金融日記 第268号 <ビジネスに使えて使えない統計学その2 因果関係を暴き出す他>(藤沢数希) |
![]() |
日本のものづくりはなぜダサいのか–美意識なき「美しい日本」(高城剛) |
![]() |
株式会社ピースオブケイクのオフィスにお邪魔しました!(岩崎夏海) |
![]() |
「#metoo」が本来の問題からいつの間にかすべてのハラスメント問題に広がっていくまで(やまもといちろう) |
![]() |
腰痛対策にも代替医療を取り入れる偏執的高城式健康法(高城剛) |
![]() |
『心がスーッと晴れ渡る「感覚の心理学」』著者インタビュー(名越康文) |
![]() |
“スクランブル化”だけで本当の意味で「NHKから国民を守る」ことはできるのか?(本田雅一) |
![]() |
これからの数年間は本格的な動乱期に入る前の最後の準備期間(高城剛) |
![]() |
ピダハンとの衝撃の出会い(甲野善紀) |
![]() |
石田衣良がおすすめする一冊 『ナイルパーチの女子会』柚木麻子(石田衣良) |