やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

「支持政党なし」の急増が示す政治不信の本質


 各種世論調査や個別に行われているヒヤリングなどでも、国民の間での政治不信の輪が広がっていて、どこの政党も積極的に支持しない「支持政党なし」が顕著に増加しています。

 厄介なのは、割と政治的態度が固まっているはずの中高年女性ですらも、既存政党離れが見えてきているのは「自民党政治に不満や不信があるのは事実でも、かといって、野党支持をするほど野党は好きではない」というのが有権者の静かなる態度変更じゃないのかと思っています。

 同様に、大阪万博のすったもんだが能登半島地震を挟んでお膝元・大阪府や奈良県などでも地元維新熱をやや冷やしてきているようで、全国での調査では特に野党第一党を目指していたはずの維新支持率が大きく後退しているようにも見えます。関係者は「維新バブルが崩壊した」と自嘲気味にお話はされていましたが、第三極としての維新への失望は大阪万博のアカン感じぐらいで冷めるほどのものなんでしたっけというのは割と不思議です。

 一方で、長らく同じハコと見られていた日本共産党とれいわ新撰組については、日本共産党への支持層の下げ止まりの一方でれいわ新選組がどの調査でも微増しており、失業者や低所得者の現状不満票の受け皿として積極的に選ばれる存在になりつつあるように見えます。以前は、共産党に失望した人たちがごっそりれいわ新撰組に移るだけであったのが、ここまで固有の支持層を確保するようになってくると、日本共産党との棲み分けも視野に入れつつ議席確保どころか躍進もあり得る状況になってきました。

 前原誠司さんのグループが離脱した国民民主党も固有の支持という点では薄いながらも地道に定着はしており、若年層の支持拡大は間違いない一方、政策面や強調する他党との関係ではやはり迷走せざるを得ないことも考えると、更なる支持層拡大のためにはもう一歩別のフェイズの仕掛けが必要になってきているのかもしれません。

 そして、そういう国民民主党にラブコールを続けてきている立憲民主党もまた、共産党との野党共闘や候補者調整の枠組みからの完全離脱もしきれず、しかし支持母体からは国民民主党との合流を期待されているところもあって、党の方針としてはやはり揺れざるを得ません。

 野党各勢力の事情もある中で今回の政倫審に出席するしないというカネと政治のすったもんだは、引っ張れば引っ張るほど岸田文雄政権も自民党も公明党も野党も全部負けという、LOSE-LOSEの状態になってしまいかねません。自民党のカネの問題で攻勢に出ているはずの野党に支持政党率アップの恩恵が堕ちてこないというのは自民党と一緒になって政治不信の対象になってしまい、既存政党という枠組みを国民が見捨て始めている意味も持ちます。もちろん、全有権者の5%程度が不信になる程度だから大丈夫と見る向きもあるのですが(単純に数字だけ見れば政治不信といってもここまでで済んでいるのであれば挽回可能と考える大御所がいても確かにおかしくはない)、ただ手持ちのデータでは支持政党なしに態度を変えた人たちは、かなりの割合が「前回投票に行った人」のように見えます。つまり、ごっそり自民党は都市部を中心に一連の派閥資金ショーで得票を喪失することをも意味します。

 そうなると、自民党としては自民党単独として都市部で戦えないのだから、すでに戦えない大阪ほか近畿と同じような敗退を起こさないためにも自民党色を薄めながら協調して戦える方法を模索しなければならないことになります。その結果が、前回の江東区長選や八王子市長選のように自民系だけど国民民主党も公明党も都民ファーストもみんな出てきて、なんとなれば小池百合子さんも応援に来ちゃう、みたいなアプローチでどうにか生き残ろう、というプランになるのではないかと思っています。

 国民民主党と都民ファーストの間での立候補者の弾のトレードも、ちょっと3区15区ではいずれもやらかしていますが、方向性としてはやはり国政は国民民主党に、都政は都民ファーストに、都民ファーストが出し切れない地域は国民民主党も都議区議市議で候補出すよぐらいの協調ではないでしょうか。元埼玉県知事の上田清司さんが国民民主党を離脱したのも、上田さんを中心に埼玉中心の地域政党を作り、これらの受け皿となって首都圏広域連合の地域政党を緩やかに作り、女帝小池百合子さんが君臨するぞぐらいのマスタープランがあっても悪くはないと思います。

 他方、小池百合子さんにおいては4月28日の東京15区補選で都知事を勇退して出馬するのではないかという観測もありました。なぜかNEWSポストセブンにそういう話も堂々と出ていて、リークする奴はもうちょっと気を使えよと思います。ただ、ご承知の通り小池百合子さんが未来の初代女性総理を目指して一発勝負に打って出るにしても次の都知事のなり手がおらず、副知事の宮坂学さんはどうかという声もあまり出ず、希望の党で旧民進党を抱き込んで大博打という雰囲気もありません。野心を燃やせ百合子。

 で、能登半島地震でほぼ100点満点の対応をして、総額1兆円近い対策費を予備費などから捻出した俺たちの岸田文雄さんなのですが、災害対応で求心力が集まりボーナスステージとなるはずが、相変わらず本人が何をしたいのかよく分からない状況で賃上げと災対で突っ走ったこともあって支持率爆上げどころか下がらない程度に低迷してしまいました。仕事はしているだけに何とも残念なことです。

 岸田さんやることやってるのに何でこんなに不人気なのってテーマはここ半年以上の日本政治七不思議みたいに扱われていますが、やはりテーマ性の欠如、やりたいこと、こだわりに対する国民への説明不足は深刻じゃないかと思います。で、岸田さんやその周辺からしますと「説明はたくさんしている」「充分事実を話している」と言ってるわけなんですが、もちろん頑張っているとしても、何で伝わらないのかってところはもう少し考えるべきだと思うんですよ。

 安倍晋三さんが上手かったのをそのまま真似ろと申し上げるつもりはないのですが、やはり安倍ちゃんはご自身の言葉で語るだけでなく、自分を好んでくれる声のでかい支持者やマスコミ人、評論家をそれなりの待遇で抱き込み、彼らの口や筆を使って「安倍ちゃん、かく考えり」という誘導は割としっかりやっておられました。安倍ちゃんの時代といまとではメディアでの扱い方も異なるのですが、安倍ちゃんの場合は国内でも外交でもうまく敵を作って、こいつはこれこれこうだから問題なので、俺はそいつと戦っている風の(ある種のでっち上げでも)分かりやすい構造を作っていました。

 岸田さんの場合は、ご本人の激しいけど一見穏やかな立ち居振る舞いであることから、彼の功績も積み上げてきたものも政治家としての決断も誰かに語らせることもできず沈んでいき、ちゃんとやっているのだから分かってくれるだろうというアピール志向の低さが問題じゃないのかなあと感じます。

 今回の政治倫理に関わるものにしても、岸田文雄さん自らが麻生太郎さんや幹事長の茂木敏充さんに根回しせずに一気に宏池会解散までして襟を正していることを、ちゃんと誰かに解説してもらわないといかんのでしょう。それをやらないからこそ高潔なのだという人もいますが、政治不信というのは高潔な人でも疑われたら吊られるわけでして、もうちょっとストーリー性やテーマ性を打ち出してもらえないかなあと思う次第です。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.432 「支持政党なし」が急増する現象をあれこれ考えつつ、何度やらかしても懲りない感じのLINEヤフー社やTesla社の話題に触れる回
2024年2月27日発行号 目次
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【0. 序文】「支持政党なし」の急増が示す政治不信の本質
【1. インシデント1】再び行政指導待ったなし、LINEヤフー社で何が起きているのか
【2. インシデント2】イーロン・マスクさんとTesla社はどこへ向かうのかをぼんやり考える
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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