紀里谷和明メールマガジン「PASSENGER」vol.068より
Wikipediaには載っていない、紀里谷和明の本当のhistory。ここでは本人自らそのルーツを語ってもらい、今という時間にどう繋がってきたのか? これは紀里谷の生い立ちを通し、過去・現在、そして未来を灯す、ひとつのストーリーである。(「History:K」は、紀里谷和明メールマガジン「PASSENGER」に連載されていた記事です。最終回Vol.13の一部をお届けします)
<Previously on History:K>(Vol.13「ハダカの自分として何を得たのか?」)
(熊本県に生まれ、15歳で単身渡米。カメラマン、PV監督、映画監督と渡り歩いてきた紀里谷和明。そして、「GOEMON」公開後に様々な葛藤や苦しみのなかで、「職業や肩書きにとらわれないハダカの自分とは何者なのか?」を問い続けた40代。その先に見えた答えの光とは。47歳になった紀里谷和明が語る現在、これからどんなHistory Kの未来図を描いていくのだろうか――。)
それぞれの当時を振り返ると、苦しくて苦しくて、「こんな苦しいことはやったことがない」と毎回思うぐらいでした。1枚の写真を撮ることも、PVを撮ることも、映画を撮ることも大変でした。その結果、1つの作品や1本の映画というものがあって、すごく嬉しかった。ただ、それらは1つの形。自分が生きているなかでやってきたことの副産物として、財産や名声があったりするわけですよね。重要なことは、その苦しみのなか、ハダカの自分として何を得たのか? っていうことなんですよ。
ハダカの自分には紀里谷和明という名前や性別、熊本で生まれたっていうことも全く存在しないんです、俺のなかでは。それらはすべて情報で、それ以前の自分がいるわけで。この世界から生まれてくるときに体はあるけども、自分のなかではその体すら理解していない。気づいたら入れ物にいれられて、気づいたら名前をつけられていて、気づいたら自分の性別を知っていく。その連続なんですよね。
だから、そこに目を向けていくと、この世界において重要なことはほとんどなくて、形がないモノしか重要ではないと。もっと言えば、形がないモノにしかリアルはありません。実在する形というのは、常に変化をしていて、非常にあやふやなモノ。この日本国もいつなくなるか分からない。なぜなら、もともと線引きなんて存在しなかったわけで。そこに人間が勝手に線引きをして、日本国と勝手に呼んでいるだけの話。
もし人間がいなくなって動物だけになったら、そんなこと気にもしないでしょう。そこには非常に自由があるのに、分割して名前をつけることによって、世の中の争いは絶えないわけですよね。延々やっているわけです。だから俺はすごく滑稽に見えてしまうというか、もうどうでもいい話だったりするんですよね。
職業や肩書きにおいても、映画を作ったり、会社を立ち上げたり、なんでもいいじゃないですか。所詮はそれをしながら、自分と向き合っているだけの話なんですよ。自分とは何なのかを探そうとしている。それをみなさんは、よく「自分探し」と言う。あれは結局、職業探しだったりするんですよね。「自分には何が向いてるんだろう」とか「どういう仕事に就くべきなんだろう」とか。しかし、それが「自分は何者なのか?」っていうことではない。
だから、「自分探し」をしている人たちは、結局、職業や肩書きという違う服を着ようとしているだけ。今まではこういうスタイルの服を着ていたけど、「自分探し」をして全く違う服を着れば、「自分は満足するのではないか」「自分が見つかるのではないか」と思っている。でも、それを何度やったところで何も変わりません。
あえて俺が「自分探し」とは何なのかを言うと、服を脱ぐという作業です。ただ、それは非常に怖くて、苦しいこと。なぜなら、社会というものを一度否定するわけですから。自分の名前や親すらも、形をすべて否定していく作業です。そのなかに何が残るのか。それを分かりやすく言えば、愛みたいなことになってくるんですよ。ここであえて、愛みたいなことと言うのは、そこに言葉をつけてしまうと非常に限定的なことになってしまう。もっと感覚的なことです。
(……この続きは紀里谷和明メールマガジン「PASSENGER」バックナンバーvol.068をご購入ください)
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