実感を語り始めたな
平川:もう一回、話を「死」の方に戻したいんだけれど、僕の親父が今回死にかけたんですよ。
それで知らなかったんだけど、「譫妄」というのになったんです。老人が入院したりすると一時的に脳の回路が違ったところに結ばれるようで、いってみれば発狂状態になるわけですね。それが一週間続いた。その間毎日病院に行って、見ているのも辛かったんだけど、親父が延々と語るんだよ。何を語るのかと思ったら、60年前に埼玉からこっちに出てきて仕事を始めて……と自分史を語り始めたわけよ。この人は何をこんなところで、と思ったね。死ぬ準備なのか分からないですけど。一週間たったら急にぱっと覚めたんだけれど。その間ずっと来し方を語っていた。それでその間のことは本人はまったく覚えていないんです。
人間の頭はどういうふうにできているのか、ものすごく不思議の感に打たれたわけです。僕らだって25年もしたら親父と同じ年になるわけでしょ。
内田:25年も生きられないんじゃないか? オレらは。
平川:君は生きるよ(笑)。
内田:そんなこと分からないよ。あの世代の人は強いもの。粗食に耐え、激しい労働に耐えてきたわけだから、根性の据わり方が違う。オレらはもやしっ子だもん(笑)。
平川:蒲柳の質だもんな(笑)。「死」については、これから文章にもしたいし、君のあの文章は本当に良かったので一冊の本にしてもらいたいな、という気持ちもある。
あらゆる問題の中心に「死」はあるわけだから。ただ語り方が難しいんですよね。一般的な概念としてはもちろん語れるし、感傷的にも語れるんだけど、「死」が持っている本当の意味について開示してくれるようなことを、鈴木大拙などはおそらく語っていると思うんだけれども、僕らは僕らで今の言葉で語っておかなくてはいけないのではないかと思っていたんだ。
それでこのブログを読んだときに、内田君は素晴らしいことを言っているなと僕は思ったわけですよ。逆に言うと、こういうことを内田君が言って、僕が素晴らしいと思えるようになった、と。つまり、内田もこういうことが言えるようになった(笑)。
内田:いつまでも子どもじゃないよ(笑)。
平川:ちゃんと重みがあって、白川先生の域に少し近づいたところがあって。だからこそ響くわけでしょう。そうじゃなければ、これは一般的な概念だな、と思うわけですよ。そう思わなかったんだよ。実感を語り始めたな、というところがあって。あのあと沖縄について書いていたけれど、あれは僕はあまり感心しなかった。
内田:失礼しました(笑)。
(第3回につづく)
(第1回はこちらから)
<この文章は内田樹メルマガ『大人の条件』から抜粋したものです。もしご興味を持っていただけましたら、ご購読をお願いします>

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