宇都宮徹壱
@tete_room

ワールドカップの裏の裏

「報道されない」開催国ブラジルの現在

 

なぜコンパクトなワールドカップにならなかったのか?

 

――12ある開催地のうち、大会後も活用されるであろうスタジアムが半分くらいしかないというのは、ちょっと衝撃的ですね。もう少し多いと思ったんですけど

大野 難しいでしょうね。たとえばクイアバなんて、日中40度くらいの気温なので。そんな中でサッカーやりたくないでしょ(笑)

――そんなに暑いんですか?

大野 暑い、すっごく暑いんです。アマゾンのマナウスは蒸し暑いんですけど、クイアバはもうちょっとからっとして、冬でも日によって40度くらいになるんですよ。何年かに一回くらい寒波が来ると、牛がびっくりして死ぬようなところです。いちおう州リーグとかあるんですけど、そんなところですからサッカーはあまり盛んじゃないですね。少なくとも、4万人のスタジアムにコンスタントにお客さんが入るとは思えない。

――とはいえ、サッカーが盛んな州や都市だけにスタジアムを作ればよかったかというと、それも難しい話ですよね?

大野 ブラジルの問題点としては、各州の州協会会長が連盟会長選挙の選挙権を持っていることです。彼らとしては「ぜひ、ウチの州でワールドカップを」と手を挙げる。一方の連盟会長としては、各州の協会にいい顔をしたいわけですよ。その結果として、12の新しいスタジアムを作ることになった。本当はもっとコンパクトにすることもできたはずなんです。

――10あればできますよね。それなのに、サッカーがあまり盛んでないマナウスやクイアバ、あるいは人工的な首都のブラジリアにあれだけの巨額な投資をしてスタジアムを作ったのだから、そりゃデモも起こりますよ。サンパウロでもコンフェデ期間中、相当に大規模なデモがあったようですが、怖い想いはしませんでしたか?

大野 ぜんぜん。そういうところに行かなければいいだけの話なので、何も身の危険は感じませんけど。でも、けっこういろんなところで封鎖になって、交通渋滞がひどくなったっていう影響はありましたね。

――デモに参加していた人たちの主張というものには、シンパシーを感じました?

大野 投資銀行が入っているので、確かに税金だけでスタジアムが作られているわけではないです。それでもお金があるんだったら、公立の病院とか学校とかの質を向上させるとか、治安を良くするための投資とか、そういうところに使ってほしいというのは、こっちで暮らしていて感じますよね。

――ブラジルでは貧しい人々のために、無料の公立病院や学校があると聞いていますが、ここ最近はかなり質が低下しているそうですね

大野 そうなんです。だから中流以上の家庭では、学校も病院も無料の公立には行かないですね。しかも医療の場合、特に田舎のほうに行くと、お医者さんが足りていないんですよ。で、あのデモがあった後に(ジルマ・ルセフ)大統領が何をしたかというと、キューバからお医者さんを連れてきたんです。

――え、キューバからですか? よくわからないですね(笑)

大野 でしょ? 都市にはたくさんお医者さんがいますが、田舎は足りないという現状があります。でも、わざわざキューバから連れてくるよりも、国内のお医者さんの待遇をより良くするとか、都市部から地方にお医者さんが行きやすくする環境を整えるとか、もっとやりようがあるわけですよ。結局のところ、今のブラジルの大統領は左派で、キューバとの関係を良くしたい。そういうふうにして、問題がすり替えられてしまっているんです。すごいナンセンスな話ですよね。

――来年の本大会では、大統領が開幕宣言をすると思うんですが、ブラッター会長以上にブーイングがすごそうですね

大野 まあ、そうでしょうね(苦笑)。大会期間中に、また大規模なデモがあるかもしれません。

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(C)Tete_Utsunomiya

ブラジルが最も苦手な対戦相手とは?

 

――いよいよ、本大会に向けてファイナルドローが間もなく(12月6日)行われます。日本がどのグループに組み込まれるか気になるところですが、ホスト国のブラジルにとって「こことは一緒になりたくない」というチームがあるんでしょうか?

大野 今回、シードから外れたイタリアは嫌ですね。逆にウルグアイがシードに入ったのは、ブラジルにとってはラッキーですよ。やっぱり1950年のワールドカップのトラウマがありますから。

――いわゆる「マラカナンの悲劇」ですね? でも最近は、ブラジルはずっとウルグアイに負けていません。コンフェデでも準決勝で勝利しているし

大野 いやあ、ウルグアイがどんな状況だろうと関係なく、ブラジル人にしてみたら「ウルグアイ」って聞いただけで嫌な顔しますよ(笑)。コンフェデの準決勝で、フォルランがPKを蹴るシーンとか、すごく意地悪そうな顔していたじゃないですか。フォルランって、ブラジルのインテルナシオナルでプレーしていた親しみのある選手ですけど、それでもあの瞬間は見ていてすごく癪に触りましたよね。

――結果的にジュリオ・セザールが阻止しましたけどね。あの試合、私はフォルタレーザのPV(パブリックビューイング)で見ていたんですが、ブラジルの勝利に涙している人がけっこういて驚きました

大野 けっこう感情入ったと思う。それはやっぱり、相手がウルグアイだったから。ウルグアイって、どこか高いところからブラジルを見ている一面があるわけですよ。

――まあ、ブラジルよりも以前にワールドカップで2回優勝していますからね。いずれにせよ、ウルグアイやアルゼンチンといった南米のライバルたちと同組にならないというのは、ブラジルにとって有り難いことだと思います。北中米ではどうですか?

大野 メキシコはちょっと嫌ですよね。ユースの大会とか、あと去年のロンドン五輪でも負けているでしょ。これは呂比須ワグナーが言っていたんだけど、メキシコ人は自国開催の70年ワールドカップのブラジルを見てから「ブラジルに追いつけ、追い越せ」って感じになったそうです。

――ペレが最も輝いていたブラジルですよね。もちろん私は後付けの知識ですが、あれをリアルタイムで見たメキシコ人にしてみたら、相当なインパクトだったと思いますよ。いずれにせよ、ノーシードでブラジルが嫌な相手というのはイタリアとメキシコということですよね(編注:抽選の結果、メキシコはブラジルと同組となり、0-0引き分けで勝ち点1を分けあった)。それ以外は大丈夫という感じなんでしょうか? たとえば98年の決勝で敗れているフランスは?

大野 フランスは、コンフェデの直前に親善試合をやって、23年ぶりに勝利しましたからね。なので(本大会で対戦しても)いけそうかなって感じかな(笑)。あと、勝負強いドイツとか、前回優勝のスペインとかも今回はシードされているし、アフリカ勢もそんなに苦手意識はないので。

――当然、アジアもそうでしょうね。たとえばもし、コンフェデみたいに日本と同組になった場合って、どうでしょうかね?

大野 去年(2012年)、日本とブラジルがポーランドで対戦しましたよね。実はあの時のブラジルって、弱小国には余裕で勝てるけれど、強豪国にはなかなか勝てなかったので、中間に位置する日本にどんな試合ができるか注目されていたんですよね。

――え、そうだったんですか? つまり、日本相手に実はプレッシャーがあったと

大野 不甲斐ない戦いをしたらメディアも国民も容赦ない批判をしたでしょう。でも4-0であっさり勝って、「なんだ、オレたちってやっぱり強いじゃん。日本くらいなら余裕」っていう(笑)。それでマノ・メネーゼス監督は、一息つくことができました。自信回復できたのは、本当に日本のおかげ。ありがたいです(笑)。

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(C)Tete_Utsunomiya

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宇都宮徹壱
1966年3月1日生まれ。東京出身。 東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)、『松本山雅劇場』(カンゼン社)など著書多数。『フットボールの犬欧羅巴1999-2009』(東邦出版)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。2010年より有料メールマガジン『徹マガ』を配信中。

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