やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

トレンドマイクロ社はどうなってしまったのか?


 トレンドマイクロ社ネタを冒頭に持ってくるのは心が痛まないでもないのですが、あまりにも酷い状況になっているようで…。

App Store上の当社アプリに関する重要なお知らせ

Appleによる全製品削除から7週間経過のトレンドマイクロ、無駄に長い釈明文に思いの丈をぶつける

 ちょっとセキュリティソフトとして許容されるレベルを超えているように見受けられ、正直関係各方面も心配しておったわけなのですが、ここにきてこのような釈明文や、ZDnetで提灯記事が出てしまうと真顔になるほかありません。

トレンドマイクロのチェンCEO、App Storeでのアプリ削除問題に謝罪と説明

 簡単に言えば、セキュリティ対策ソフトなので利用者の同意がなくてもデータをセキュリティ機能拡張のために使っても構わないだろう、その問題についてApple側と話し合っているという内容であって、医療業界を例に出して抗弁しているわけですけど、医療業界も患者の本人同意は原則として必ず必要としており、緊急を要する感染症の拡大などにおいても緊急事態宣言のような政治の介入がない限りいきなりの隔離ができないなど、とても参考にならないわけですよ。

 トレンドマイクロ社の気持ちは分かる部分も無きにしも非ずなのですが、一番問題なのはトレンドマイクロ社はその成り立ちや経緯から非常にマスコミや官公庁、とりわけ警察庁・警視庁に対してそれ相応の影響力を有している点です。ここまでトレンドマイクロ社の所業についてあまり一般メディアで報じられてこなかったのも、このあたりの関係の深さ故のものがあるであろうことは想像に難くないのですが、それはそれとして、このような思想で日本のセキュリティ対策企業としてモノを言える状態にあるというのはかなり問題です。

 もちろん、ロシア系某社や、中国系問題企業のように、もはや政府や情報部門と一体になってしまっていると囁かれる企業もまた存在するわけですが、ちょっとトレンドマイクロ社についてはそのレベルを踏み越えてしまっています。

トレンドマイクロ、国内のApp Storeからアプリが消滅--中国への閲覧データ送信は否定

 AppStoreからトレンドマイクロ社のアプリが消えてから2か月、これでもうなかなか外からは「中国に閲覧データ送信を送っていない」というトレンドマイクロ社の説明を検証することができなくなりつつあります。また、量販店店頭ではいまだにアプリがダウンロードされる前提のiOS向けアプリの利用権がパッケージとして売られ、消費者被害も起き得る可能性があります。

 こうなると、単純に社としてのトレンドマイクロ社だけでなく、トレンドマイクロ社に関わりのある人物(従業員や契約コンサルタントなども含め)もきちんと身許検査して、まずいようなら取引停止したり追放したりしなければならなくなるでしょう。

 そもそもiOSのハードウェアにトレンドマイクロ製のウイルス駆除ソフトは不要という問題も含めて、11月ごろは相当な問題が勃発するのではないかと恐れています。早期着地はむつかしそうで、これはもうしばらく見ている以外方法は無さそうです。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.240 トレンドマイクロを筆頭にJapan Taxi、Facebookと皆が盛大にやらかしているのはどうしたものかと頭を抱える回
2018年10月31日発行号 目次
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【0. 序文】トレンドマイクロ社はどうなってしまったのか?
【1. インシデント1】「Japan Taxi」アプリのやらかしとこの手のアドテクの勇み足具合がヤバい件で
【2. インシデント2】南青山の変な「児童相談所反対運動」の件
【3. インシデント3】Facebookのユーザー認証情報大量流出事件が示唆すること
【4. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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