津田大介
@tsuda

『メディアの現場』vol.45「今週のニュースピックアップ」より

アップル固有端末IDの流出から見えてくるスマホのプライバシー問題

狙いは国家による情報統制への警告

──漏らしたのはアップルではなく、FBIでもなく、そもそもクリティカルな顧客情報ですらなかった。ではなぜアンチセックは「国民を監視目的のためアップルがFBIにデータを渡し、ハッカーがFBIのノートパソコンに侵入してデータを盗み出し、その陰謀を暴いた」というストーリーを発表したのでしょう。

津田:うーん。かっこよくいえば国家による情報統制への警告としてやったということかもしれませんが、デマですからね……。実際のところは、たまたまBlueToadのサーバーに侵入できてしまった今回の犯人が愉快犯的に話を大きくして公開したということなんじゃないでしょうか。アンチセックの犯行声明が事実だったら「世紀の情報漏洩事件」になったんでしょうが、実態はこれですから。とはいえ、個人に対する実質的な被害はほぼなかったわけですから、その意味では良かったと思います。

──今後、似たような事件が起きる可能性は?

津田:産業技術総合研究所の高木浩光さん [*17] は、2012年3月の時点で今回の一件で起きたようなリスクについてツイッターで警告しています。[*18] 高木さんはUDIDやMACアドレス [*19] のような端末固有番号を行動ターゲティング広告に使うことを問題視しており、それは何らかの形で他人のUDIDやMACアドレスを調べ、それを広告サーバーに送信することでその人の趣味嗜好がわかってしまうからなんですね。低いプライバシー意識に端を発する問題は、日本のIT企業でも起きており、高木さんは実際にUDIDを利用してログインを実装していたまずい例をブログやツイッターで指摘しています。[*20] このあたりの問題は日本の技術者コミュニティでも話題になりました。[*21] ただ、勘違いしてはいけないのは、UDID自体が悪なのではなく、UDIDをキーとして個人情報をオープンにするサービス・アプリがある、そのことが問題であるということです。これを解決するには、日本にもきちんとプライバシーの問題を独立して指導監督できる三条委員会 [*22] や独立機関を作る必要があると個人的には思っています。プライバシーに関して独立的にガバナンスが効かせられる状態が生まれない限り、本来の目的を超えてプライバシーを侵害するような悪質事業者を完全に排除することはできないでしょう。

1 2 3 4 5
津田大介
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事。J-WAVE『JAM THE WORLD』火曜日ナビゲーター。IT・ネットサービスやネットカルチャー、ネットジャーナリズム、著作権問題、コンテンツビジネス論などを専門分野に執筆活動を行う。ネットニュースメディア「ナタリー」の設立・運営にも携わる。主な著書に『Twitter社会論』(洋泉社)、『未来型サバイバル音楽論』(中央公論新社)など。

その他の記事

迷路で迷っている者同士のQ&A(やまもといちろう)
皇室典範のような面倒くさいところに国連の人権屋ぽいのが突撃してきた話(やまもといちろう)
私の経営情報グループ『漆黒と灯火』の会員を募集したら一日で枠が蒸発した(やまもといちろう)
(ある意味で)巨星・石原慎太郎さんを悼んで(やまもといちろう)
国会議員は言うほど減らすべきか?(やまもといちろう)
憂鬱な都知事選(やまもといちろう)
高2だった僕はその文章に感情を強く揺さぶられた〜石牟礼道子さんの「ゆき女聞き書き」(川端裕人)
学術系の話で出鱈目が出回りやすい理由(やまもといちろう)
グローバル化にぶれないアフリカのエッジの象徴としてのエチオピア時間(高城剛)
村上春樹から上田秋成、そしてイスラム神秘主義(内田樹&平川克美)
LINE傍受疑惑、韓国「国家情報院」の素顔(スプラウト)
何でもできる若い時代だから言えていたこと(やまもといちろう)
これからの数年間は本格的な動乱期に入る前の最後の準備期間(高城剛)
人間はどう生きていけばいいのか(甲野善紀)
季節にあわせて世界を移動する食のブローカー達(高城剛)
津田大介のメールマガジン
「メディアの現場」

[料金(税込)] 660円(税込)/ 月
[発行周期] 月1回以上配信(不定期)

ページのトップへ