総ブラック社会はやっぱり回避しないといけないよね~~『人間迷路』のウラのウラ

労働環境を時間をかけて“チューニング”していく

井之上:「調整」は絶対に必要だと思いますけれども、それは簡単な話じゃないですよね。雇用がおかれた状況は、全体としては変わらないというか、「仕事でより高いクオリティや能力を求め続けられる」世の中であることは、ほとんど変わらないと思うんですよ。そこはもう修正のしようがないのでしょうか。

やまもと:もちろん簡単じゃないです。今年議論が始まったとして、6、7年くらいかけて改善していくことになるでしょうね。

それに、知的労働の世界では、ある程度ブラックに進むのは仕方がないでしょうね。人間というのは、突き詰めなかったらクオリティを上げることができませんから。でも、そのジレンマは「じゃあ、そういうクオリティの高い知的労働ができるようになるためのスキルアップは、どういう労働環境で可能なのか?」という問いに、絶対戻ってくるんですよ。

井之上:なるほど。そこはまさに「チューニングの世界」ということですね。のんびりとしていればいいというわけでもないし、タコ部屋でブラックな働き方をしすぎてもダメだし……というところで、雇用する側とされる側でもっとも良い環境をチューニングをする時期に入っているということでしょうか。

やまもと:そうです。少なくとも今年は、その議論がきちんとできるようになっていくと思っています。これだけウェブ上で「ブラック企業」という言葉が定着して、「あそこはブラック企業だ」と名指しされるような現状になってきましたからね。これはもう企業にとってはレピュテーションリスク以外の何ものでもないですよ。

あと、実は重要なのは、「東京」と「それ以外の地域」との格差の問題です。例えば、こういう議論を、富山や北海道でできるか、と言われたらできないんです。知的労働がきちんと職種として存在している東京では、いろいろと議論が出てくるんですけど、地方からはなかなか出てこない。でも、ブラック企業の問題は、むしろ地方工場や農業の現場に多いんですね。東京で働いている人の視界の外で起きている事例が実はたくさんある。実際、労働問題の相談件数は、地方都市からの相談がかなりの割合を占めているんですよ。要は、操業時間が長いにも関わらず、残業代が支払われないとかそういう世界です。

だから今後は、地方の問題まできちんとフォローアップして、自分たちには何ができるかを突き詰められるような議論ができるといいなと思っています。この議論はまさに今年からなんですよ。まあ2020年くらいに関連法案が可決するといいな、という……。でも、たぶんその頃になっても「まだ可決しねえぞ」なんて言っているんじゃないかな、と思いますけれども。

(終わり)

 

やまもといちろうメルマガ『人間迷路』のご購読はこちらから>

【オススメ記事その1】

「社員を切ってください、雑巾は絞ってください」

【オススメ記事その2】
「父親が次男に事業を継がせた深~い理由」

1 2 3 4 5 6 7
やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

その他の記事

クラウドの「容量無制限」はなぜ破綻するのか(西田宗千佳)
猛烈な不景気対策で私たちは生活をどう自衛するべきか(やまもといちろう)
結局「仮想通貨取引も金商法と同じ規制で」というごく普通の議論に戻るまでの一部始終(やまもといちろう)
中国からの観光客をひきつける那覇の「ユルさ」(高城剛)
「こんな死に方もありますよ」と、そっと差し出す映画です ~『痛くない死に方』監督高橋伴明×出演下元史朗インタビュー(切通理作)
IoTが進めばあらゆるモノにSIMの搭載される時代がやってくる(高城剛)
お盆の時期に旧暦の由来を見つめ直す(高城剛)
FATF勧告でマネーロンダリング日本不合格の後始末(やまもといちろう)
空港を見ればわかるその国の正体(高城剛)
地方統一選から見える「安倍政権支持者」と「アベノミクス」受益者の錯綜(やまもといちろう)
岐路に立つデジカメ、勝ち組キヤノンの戦略(小寺信良)
NAB2017でわかったHDRのインパクト(小寺信良)
「モノ」と「場所」に拡張していくインターネット(高城剛)
【第1話】日本型雇用の未来は君の肩に……(城繁幸)
川上量生さん、KADOKAWA社長時代に高橋治之さんへの資金注入ファインプレー(やまもといちろう)
やまもといちろうのメールマガジン
「人間迷路」

[料金(税込)] 770円(税込)/ 月
[発行周期] 月4回前後+号外

ページのトップへ