総ブラック社会はやっぱり回避しないといけないよね~~『人間迷路』のウラのウラ

ネット世界で新人をどうやって育てていくか

井之上:ネットの世界というのは、新人がとにかく生まれていない状況にあると思うんです。それは「スカウト制度」が整備されていないからだと見ています。今でも、一定の成功を収めた先輩が「彼すごいよね」と引き上げる形はありますよね。佐々木俊尚さんもたくさんの新人をネット界に送り出しています。私はやまもとさんがイケダハヤトさんにしたことも、同じような行為だと思っているわけですが……。これはこれで必要です。ただ、それはどちらかと言うとイレギュラーな道で、本当に必要な道は、きっちり育成からマネタイズまでできるプラットフォーマーが「スカウト」することなんだと思うんです。

プロ野球を見ても、スカウトという仕事は重要ですよね。すぐれた先輩選手が、後輩選手のプレーを見て「あいつはすごい」と評価するのもいい。ただ、その先輩選手の眼鏡には良く映らなくても、別の視点から見れば「彼なら一定数の勝ち数を稼げるピッチャーだ」という場合も当然ありえますよね。それで、さきほどの「レイヤー」の話とつながる部分もあるのですが、選手が選手を評価するにはやはり限界があって、別レイヤーからの評価やスカウトがあるということが、その業界が長続きするためには絶対に必要だと思うんです。

ただ、今の難しさは、例えば、ブログという業態において、面白そうな人を徹底的にスカウトして、世の中に紹介したり、育成している人がいるのかと言ったら、いないですよね。そういうことに挑戦している人もいるのかもしれませんが、少なくともスカウトした人をうまくネット上で注目される存在にまで持ち上げることができていない。結局、それができているのは、「先輩ブロガー」しかいないわけで、これはいびつな状況だと思うんです。

やまもと:うーん……。身もふたもない議論なんですけど、ブログって2004年くらいから2013年まで、もう9年くらい続いて来ましたよね。これはつまり「書ける人は書いた」ということなんだと思うんです。もう、試した。「書ける人は、一度は書いた」んです。それで、今もブログを書いている人はその8~9年間、続けられた人だけが生き残っているということなんですよ。

つまり、これから新しくブログを書こうとしている人のほとんどは、「一回、挫折した人」ばかりです。あるいは必要に迫られて書く、本当に新参の人ですね。例えば、20歳台前半の大学を卒業したばかりのような人たちがブログデビューする。でも、新規参入のブロガーというのは、過去9年間の中でブログ執筆を試してきたブロガーに比べて、はるかに粒が小さく、かつ層が薄い。

それで、さきほどスカウトが必要だというお話があったんですけど、プロ野球で言うと、各球団に選手が65人いて、毎年新規で入ってくるのは、6人から8人くらいですよね。この人数は、全体からすると当然、少ない。その少ない人数を、うまく既存のシステムにはめ込んでいくようなスタンスって、ブログの世界だと相当な苦労を要すると思うんですよ。

というのは、例えば、野球でも小説でも漫画の世界でも、「大型新人」には一定の投資、インベストメントが投じられて、それがかなりの短期で回収できるから成立しうるものだと思うんです。でも、ブログの世界において、入団1年目で打率2割8分、ホームラン20本を打つような選手が出るかと言われると、これが出ないんですよ。なぜなら「突然、注目される」ということは、ほぼ期待できない世界だからです。あるとしたら炎上が起こったときなんです。

井之上:なるほど。炎上以外で、急に注目されることがないから、投資が回収できないわけですね。

やまもと:さらに言えば、ブログの最大の問題点は、ネタが続かないことなんです。自分の中にフレームワークを持っていて、入ってくる情報を処理して出すという人であれば、比較的長く続きますけど、自分自身で考えたものを放出していくタイプの人は、あっというまにネタを枯渇させてしまう。そして、更新頻度が落ちていき、面白がられる前に飽きられて消えていく……。こう考えていくと、ブログは、そもそも構造として、新規参入に厳しいメディアだと思います。

イケダハヤトさんにしても、彼は彼で3年、4年とやってきている中堅なわけです。ようやく固定の読み手が出て、みんなが注目し始めて、何というか「面白がられる」循環に入った。だから、これは1回、「品評の台にのせないといけない」と思って、先日からちょっかい出しているわけです(笑)。

これから上に行くか、そのままだめになってしまうかは分かりません。ただ、チャンスはもちろんあると思いますよ。みんなでよってたかって面白がった結果、どういう奥行きがでてくるのか。いわゆるリアクション芸でない形のイケダハヤトさんが出てきたら、それはそれで面白い論客の一角として残る可能性はありますよね。彼は彼で、おそらく今回の件をうまく利用してやろうと思っているはずですし。

井之上:もちろん、それくらいの芯の強さがないと生き残れませんよね。

やまもと:イケダハヤトさんの持つ図太さから見えてくるのは、やはり彼も「背負っている」ということだと思うんですよ。奥さんとお子さんがいらっしゃる。まあ、いろいろグダグダにはなってきているのですが、とにかくせっかく面白い人が出てきたのだから、実力に応じた注目を勝ち得て欲しいなと。勝手にそう思っているわけです。そういうしくみを僕らが作っていかないと、いつまで経っても新人が育たなくて、ブログというメディア自体が死んでしまいますからね。

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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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