名越康文
@nakoshiyasufumi

名越康文メルマガ『生きるための対話』より

「近頃の新入社員は主体性に欠ける」と感じる本当の理由

「好き嫌いがわからない」のはアイデンティティ障害の兆候

 

自分のやりたいこと、あるいはやりたくないことがわからない、というのは端的に言えば「好き嫌い」がわからない、ということです。そして「好き嫌い」がわからなくなるということに、僕は「アイデンティティ障害の兆候」を感じます。

 

コウモリが明るい場所を嫌い、暗い場所へと逃げ込むように、あらゆる生命は、「好き嫌い」を軸に行動し、その命をつないでいます。つまり、「好き嫌いがわからなくなる」というのは、生命としてのアイデンティティが壊れつつあるといってもいいぐらい、危機的な兆候だということです。

 

アイデンティティ障害に陥っている人間は「やってもいいこと」だけをやり、「やらなくてもいいこと」や「推奨されないこと」には手を出しません。社会もひとつの「生命」です。もし、社会そのものがある種のアイデンティティ障害に陥っているとすれば、その結果として、個々の組織や人々からも創造性が失われることになります。

 

「言われたことはやるけれど、自分から新しいことに取り組むことを嫌う」新入社員が毎年のように現れるのは、社会全体がアイデンティティ障害に陥っていることの「結果」に過ぎないのかもしれません。

 

子育てや教育はもちろんのこと、それこそ社会人となった後の新入社員教育の場面においてすら、僕らは「言われたことを素直にやる」ということを手放しに評価しがちです。でも、「これをやりなさい」と言われたことをそのまま素直にやる、ということは「病み」の兆候といっても過言ではないと僕は捉えています。

 

なぜなら、「言われたことを素直にやる」というのは、別にそれを「やりたい」からではないからです。他人から言われた事を素直にやるのは、「やりたくないこと」が明確でないことの結果に過ぎません。人間というのは、元気であればあるほど人から言われたことに反発するし、病気になって元気をなくすと、人から言われたことに素直に従う。そういう生き物です。

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名越康文
1960年、奈良県生まれ。精神科医。相愛大学、高野山大学、龍谷大学客員教授。 専門は思春期精神医学、精神療法。近畿大学医学部卒業後、大阪府立中宮病院(現:現:大阪精神医療センター)にて、精神科救急病棟の設立、責任者を経て、1999年に同病院を退職。引き続き臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。 著書に『「鬼滅の刃」が教えてくれた 傷ついたまま生きるためのヒント』(宝島社)、『SOLOTIME~ひとりぼっちこそが最強の生存戦略である』(夜間飛行)『【新版】自分を支える心の技法』(小学館新書)『驚く力』(夜間飛行)ほか多数。 「THE BIRDIC BAND」として音楽活動にも精力的に活動中。YouTubeチャンネル「名越康文シークレットトークYouTube分室」も好評。チャンネル登録12万人。https://www.youtube.com/c/nakoshiyasufumiTVsecrettalk 夜間飛行より、通信講座「名越式性格分類ゼミ(通信講座版)」配信中。 名越康文公式サイト「精神科医・名越康文の研究室」 http://nakoshiyasufumi.net/

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