津田大介
@tsuda

津田大介のメルマガ『メディアの現場』より

医師専任キャリアコンサルタントが語る「なぜ悩めるドクターが増えているのか?」

医師自身がキャリアをしっかり考えることが大切


津田:中村さんが、いまの医療界の大きな問題として挙げていた医師不足。似たようなことは過去に法曹界でもいわれていて、弁護士不足解消のために司法制度改革をやって、確かに弁護士は増えた、しかしその結果食えない弁護士がだいぶ増えてしまったといったことがあります。医師不足が解消されたうえで、どのような方向に医師や医療業界が変わっていくのが望ましいと思いますか。

中村:やっぱりキャリアというものを医師自身にもう少し考えてほしいと思います。私の仕事の延長で考えると、医師と病院の良いマッチングを増やしていくというのが、いま置かれている環境のなかではいちばん近い解かなと思います。

津田:ただ、例えば自分のワーク・ライフ・バランスを考えて当直は少ないほうがいいとか、自分のやりたいことや望みを最適化したマッチングが増えていくと、やりがいはあるけどハードな診療科に行く人がどんどん少なくなっていって、マイナー科とか皮膚科のお医者さんばかりが増えて、日本の医療大丈夫なの? なんて思っちゃう部分もあるんですけど。

中村:ただ、マッチングは需要と供給で成立するものなので、先生たちも望みばかり言っていては生きていけない部分もあると思います。私が思う良いマッチングとは、医師の適正配置というイメージです。例えば2017年に、専門医制度がガラッと変わるんです。専門医の定数を設けることで、医師の診療科の偏在をなくそうという動きが出てきている。それも1つのマッチングのかたちだと思います。

津田:オバタさんは、医療業界が今抱えている問題と、このように変わっていったほうがいいのではというところで、どのようにお感じですか。

オバタ:私は高齢者問題に関心あるんですけど、もう介護の問題はにっちもさっちもいかなくなっている。それで病院から在宅へっていう流れ、すごく急速に進んでいますよね。ただ、まだ在宅医が全然足らないですよね。たぶんそれが喫緊の課題としては大きいんじゃないかな。

津田:ある程度年老いた医師が、余裕をもって働きたいというときに、在宅医という選択肢も悪くないということなんですかね。

中村:5年前くらいでいうと、在宅を希望する先生はほとんどいなかったです。自分で患者宅に行くっていうのは、ある意味価値観が変わるくらいのことですから。それがいまは、けっこう自然になってきた。これは大きな変化で、社会のニーズと医師の希望が、少しずつですがマッチングできてきていると思います。

津田:昔の開業医って往診があったじゃないですか。おじいちゃんのお医者さんが僕の地元にもいて、来てくれたりとか。在宅医の流れというのは、そういうのとも違うんですか。

中村:基本同じですね。ただ、在宅専門にするっていう。

津田:そうすると自前の診療所をもつ必要性すらないですね。

中村:そうです、ほとんど資本がいらない。そのシフトっていうのは流れとしては悪くないと思います。そういうマッチングというか、社会のニーズと先生の希望の妥協点が見つけられたら、医師不足とかというのは解消に向かっていくのかなと思います。

 

医療ドラマと現場の医者

津田:医療に対する関心というのはもちろん医学部人気もありますが、医療モノってすごく受けるじゃないですか、小説もフィクションもドラマも。

オバタ:テレビドラマ、いま、異常なほど放送してますからね。

津田:僕も結構好きで見るんですけど、例えば医療モノのドラマに対する医師たちの反応って聞いたことはありますか? 誤解を生んでいるような部分だとか。

中村:男性医師からはあまり聞かないですが、ただ女性医師はちょこちょこ見ているようですね。以前、『医龍 Team Medical Dragon2』で麻酔科の役をやっていた大塚寧々が、紫色の手術着を着ていたんです。あれ、めちゃくちゃ流行りましたね、女性医師に(笑)。

津田:あ、流行ったんですね(笑)。

中村:いまも、そういうドラマの影響って少なからず医療界に影響を与えています(笑)。

オバタ:子どもの段階での影響っていうのも大きいですよね。いまだに『ブラック・ジャック』に憧れてっていう人もいるだろうし。

中村:外科医はある程度『ブラック・ジャック』を読んでますからね。

 

医者に向いている人、向いていない人

津田:オバタさん、この本は医学部の学生とか、なりたてのお医者さんとか、医学、医療業界に関連している人だったらみんなに読んでいただきたい本だと思うんですが、意外とお受験をさせているママとかにも読んでもらいたいような。

オバタ:まさに、受験生の保護者に読んでもらいたいですね。装丁から書き方から、そのへんはそうとう意識しました。

津田:医師になることがすごく社会的ステータス、子どもの幸せになると思って勉強させているけれども、実際のところ親自身は医師の実態を知らない……。

オバタ:なってからのことも最低限知ってくれよって、そういうことです。あと教育関係者に読んでもらいたいですね。特に私立、最近は公立もそうですけど、中高一貫校なんかで、東大合格率だけじゃなくて、医学部合格率をものすごい争っているから。できる子に医学部を受けさせるという流れがありますが、なんでもかんでも押しこめばいいって話じゃないんで。進路に関わる先生とか塾・予備校の先生には、この本に書いてある現実をすごく知ってほしいですね。

津田:すごく頭がいいけど、やっぱり体力はちょっと厳しいかなっていう子には、もしかしたら他の道に行ったほうがいいかも、というアドバイスができるかもしれないですよね。

オバタ:そうそう、向き不向きがある仕事だと思うので。

津田:あと、さっき『ブラックジャックによろしく』の話が出てきましたけれども、この本と『ブラックジャックによろしく』両方を見ると、理解が進むところが(笑)。

オバタ:『ブラックジャックによろしく』が話題になったころは、初期研修制度が変わる前ですよね。2002~2003年くらいだったと思います。

津田:変わり目のときだったんですね。

オバタ:そういう意味では面白いかもしれないですね、だいぶそこから変わってきているので。だってあのころ、研修医は食えなかったじゃないですか。確か月給5万円にも届かない世界でしたよね、あの当時。

中村:大学医局の研修医だったら、そうです。2004年の臨床研修制度で変わったのが、アルバイト禁止になったんですね。

津田:アルバイト禁止になった代わりに、待遇がよくなった?

中村:基本給が上がった。

オバタ:まともになったんですよね。基本的にね。

津田:われわれも日常生活をしていれば、多かれ少なかれお医者さんと接するんだけど、お医者さんそのものについてはほとんど知らないんだなあ、とあらためて思いましたね。これは、医療の専門家ではない中村さんに伺うことではないかもしれませんが、一般庶民からすると、良い医者を選びたいという心理もあるじゃないですか。これまで多くの医師を見てきた中で、こういう病院やこういう医師を選ぶといいっていうポイントみたいなものはありますか。

中村:個人的な印象で言うと、電子カルテだけを見て患者を見ずに診察する人はあまり……。もちろんカルテに入力することは必要なんですけれども。ちゃんと患者を見てくれて、話してくれて、触診をしてくれる先生がいいと思いますね。病院の良し悪しというのは、判断基準がいっぱいありすぎて難しいですね。

津田:それは本当にそうで、すごく評判が良い病院だけれども、たまたまあたった医者が良くなかった、とかね。逆にいうと、評判がすごく良くないんだけれども、この特定の科だけはすごくいいみたいなこともあるでしょうね。

中村:それはありますね。やっぱり大学病院でも大きな民間病院でも、あそこの内科はいいけど整形はダメ、とかっていうのもありますからね。

津田:なかなか見えない医療業界や医師の実態がわかったんじゃないかと思います。中村さんの書かれた『医師・医学部のウラとオモテ 「悩めるドクター」が急増する理由』は、本当に読みやすいですし、かなり面白い情報がたくさんあるので、ぜひ書店でお手にとっていただければと思います。本日はどうもありがとうございました。

中村・オバタ:ありがとうございました。

 


中村正志(なかむら・まさし)

1971年生まれ。関西学院大学社会学部卒。大手コンサルティング会社にて旅行業、人材ビジネス業、教育機関、医療機関などのマーケティング支援や経営戦略策定を行った後、株式会社ニューハンプシャーMCの設立に参画。2005年に医師向けの人材紹介サービス事業を開始する。「FOR YOU」の経営理念に基づき、医療機関と医師、双方がハッピーになるマッチングを心掛けている。これまで300人以上の医師のキャリア設計に携わり、転職やアルバイト先の紹介だけでなく、医学生や研修医向けの勉強会なども主宰。なお2005年から執筆している「医師のキャリアを考えるブログ」は投稿数が1500を超え、ドクターの読者も多い。

株式会社ニューハンプシャーMC(ニューハンプシャー医局)
http://www.e-nhmc.com/

 
オバタカズユキ

東京生まれの千葉育ち、四半世紀ほど前から台東区谷中で住・職。大学新卒後、53日間の出版社勤務を経て、1989年よりフリーライターに。硬軟もろもろのコラムや書評、ルポエッセイの執筆、マッピング記事作成などの他、書籍の企画・構成も行う。著書は『大学図鑑!』シリーズ(ダイヤモンド社)、『何のために働くか』(幻冬舎文庫)ほか多数。土地勘のある分野は「教育」「仕事」「資格」などだが、最近は「メンタルヘルス全般」に興味あり。

ツイッターID:@obatakazu1


 

津田大介メールマガジン「メディアの現場

2015年11月27日 Vol.190 【パリ同時テロをメディアはどう報じたか】 目次

1.メディア/イベントプレイバック《part.1》
 ──協業で未来に挑戦する
   夢のものづくり「四次元ポケットプロジェクト」

2.メディア/イベントプレイバック《part.2》
 ──医師専任キャリアコンサルタントが語る「なぜ悩めるドクターが増えて
いるのか?」

3.今月のメディア論壇時評
 ──論壇委員会議論用メモ(2015年11月)

4.今週の原発情報クリッピング

5.津田大介のデジタル日記

6.140字で答えるQ&A
 Q1:パリのテロについての見解を教えてください。
 Q2:最近なにかいいことあった?

7.メディア・イベント出演、掲載予定

8.ネオローグユニオン

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津田大介
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事。J-WAVE『JAM THE WORLD』火曜日ナビゲーター。IT・ネットサービスやネットカルチャー、ネットジャーナリズム、著作権問題、コンテンツビジネス論などを専門分野に執筆活動を行う。ネットニュースメディア「ナタリー」の設立・運営にも携わる。主な著書に『Twitter社会論』(洋泉社)、『未来型サバイバル音楽論』(中央公論新社)など。

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