「ルールを捨てる」とき、人は成長する 世界のトップビジネスパーソンが注目する「システマ」の効果

近年、欧米のビジネスや教育分野において注目を集めるのが「システマ」だ。ロシア特殊部隊「スペツナズ」の隊員教育メソッドだったシステマは、ソビエト連邦崩壊をきっかけに、ロシア国外に知られるようになった。現在では世界45か国、250以上の団体で取り入れられ、教育、医療、軍事、セキュリティなどさまざまな分野で活用されている。

なぜ、世界のトップビジネスパーソンはシステマに注目するのか。先日、システマが持つ教育効果について、ビジネスマンを主人公にした物語にまとめた書籍『人生は楽しいかい?』を刊行した、公認システマインストラクター・北川貴英氏に「システマ」が持つ教育効果について話を聞いた。
人生は楽しいかいカバー
『人生は楽しいかい?』

ゲオルギー・システマスキー著 北川貴英監修

 

人生のリスクマネジメントとしての武術

――なぜ今、システマは世界中から注目を集めているのでしょうか。

北川貴英氏(公認システマインストラクター・システマ東京主催)

 

北川 システマの創始者であるミカエル・リャブコは、10年以上ロシアの特殊部隊「スペツナズ」で戦闘や要人警護、人質解放作戦に参加するとともに、隊員を指導するインストラクターを務めました。その後は、ロシア連邦法務省顧問、国内軍務大佐、ロシア連邦最高検事局、法務大佐など、ロシア政府の中枢に関わる要職を歴任する一方で、ソビエト連邦崩壊をきっかけに、それまでロシア軍内でしか知られていなかったシステマを、世界中の人に伝える活動を始めました。

ミカエルからシステマを伝えられた門下生たちの中には、世界中で活躍する教育や医療、セキュリティ、軍事関係のプロフェッショナルたちがおり、彼らはシステマのメソッドや思考法をそれぞれの現場で活かしています。

それまでロシア軍の内部でしか知られていなかった知恵が世界に知られるようになってから約25年。今、その成果がさまざまな分野で目に見える形になり始めた、ということなのではないかと思います。


システマ創始者、ミカエル・リャブコ氏

 

——「武術」というと敵を打ち倒すテクニックというイメージがありますが、システマは単に敵を倒す方法ではなく、もっと幅広い知識や技術を伝えるものだということでしょうか。

北川 そもそも武術の目的は「敵を倒す」ことではなく、「生き残る」ことです。戦場であれば一人の犠牲者も出すことなく、作戦を成功させることを目指して作られたのがシステマです。

システマというのは、英語では「system」すなわち「仕組み」です。仕事をする、家族を守る、社会に貢献する……人が生きるために必要なすべての「仕組み=system」を学ぶのがシステマですから、「格闘術」はそのほんの一部に過ぎない、ということです。

先日、沖縄で米軍関係者に女性が襲われた件で、ある国会議員が「武道をやらせておけばよかった」という趣旨の発言をして、炎上していましたよね。もちろん、「掴まれた腕を振り払う」というような技術を習うことは悪いことではありませんが、暗い夜道で屈強な男性に襲われてしまったら、生半可な護身術では役に立ちません。

システマにおける「護身」は、「暴力への対処」に限ったものではありません。私たちは生きている限り、大小さまざまなリスクに囲まれています。車にはねられるかもしれないし、泥棒にお金を盗まれてしまうかもしれないし、体調を崩して寝込んでしまうかもしれない。あるいは、ネットゲームばかりやっていて仕事をサボり続けていたら、会社をクビになってしまい、食い詰めてしまうかもしれません。

こうしたさまざまなリスクをマネジメントすることが、本来の「護身」です。ですから、例えば「毎日規則正しい生活をして、適度な運動をして、十分な睡眠を取る」ということや「しっかり働いて、約束を守って仕事仲間の信頼を得る」といったことが、システマでは単なる「格闘術」よりも重視されるのです。

1 2 3 4 5

その他の記事

社会が混沌に向かえば中国雑貨が大儲けする時代(高城剛)
普遍的無意識を目指すあたらしい旅路(高城剛)
選挙だなあ(やまもといちろう)
「こんな死に方もありますよ」と、そっと差し出す映画です ~『痛くない死に方』監督高橋伴明×出演下元史朗インタビュー(切通理作)
コロナ禍以前には戻らない生活様式と文化(高城剛)
急成長する米国大麻ビジネスをロスアンゼルスで実感する(高城剛)
(ある意味で)巨星・石原慎太郎さんを悼んで(やまもといちろう)
なぜ『フィナンシャル・タイムズ』は売られたのか(ふるまいよしこ)
恋愛がオワコン化する時代の不幸(紀里谷和明)
「芸能人になる」ということ–千秋の場合(天野ひろゆき)
『外資系金融の終わり』著者インタビュー(藤沢数希)
ルンバを必要としない我が家でダイソンを導入した話(小寺信良)
日本のものづくりはなぜダサいのか–美意識なき「美しい日本」(高城剛)
「民進党」事実上解党と日本の政治が変わっていくべきこと(やまもといちろう)
前川喜平という文部科学省前事務次官奇譚(やまもといちろう)

ページのトップへ