やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

ネットニュース界隈が公正取引委員会の槍玉に上がっていること


 当メルマガでも何度か公取関係の話は取り上げておりますが、ニュース界隈でヒヤリングを受けた先も増えたからなのか、ぼちぼち話題になるようになってきました。


ニュース配信事業者の利用料支払い、公取委が調査開始…報道機関300社にアンケート

 よりによって読売新聞がこの記事を書いていることの是非なんてのは非常に気になるところでして、これはまあ大正義巨人軍しぐさだよねと言われればまあそうなのかなと思ったりもしますね。

 で、ニュース配信においてだけでなく、同じ記事が上位表示されたりリストにも入らなかったりといった事例が出るようになってくると、さすがに公取の事案になるのもまた当然と言え、その前哨戦と言えるのが同じ記事なのにGoogleやヤフーニュースなどで配信されるときに媒体によって上位表示されたり、あるいはトピックスやヤフートップに表示されたりするかどうかというニュース配信で得られる収入に直結するところの透明性と公平性についてどう判断するのかというところです。

報道機関によるニュースポータルサイト事業者に対する共同行為

Google検索の「トップニュース」欄では少数のニュースサイトが優先的に表示されている

 Googleなどは、しれっとアルゴリズムが決めてます(なので文句言われても知りません)というスタンスで潔くやっていますが、機械が決定しているにせよ編集部がドモホルンリンクル一滴一滴が落ちてくるのを眺めるように記事に目を通して判断するにせよ、最終的にどの記事がどう扱われたかで事業者にとっては収入面で雲泥の差が出るわけですからどうにもなりません。

Google ニュースの記事が選ばれる仕組み

 こうなるとデータ利活用による情報的健康とは違った文脈で問題が浮き彫りになるわけですが、特にフェイクニュース(ディスインフォメーション)があるかないかだけでなく、物事の報道における党派性も含めて記事の品質判断の材料になるよと言われると実にデリケートな論点を孕むことになります。

 これはTwitterがキュレーションチームを組成して左派媒体の記事を優先してモーメントに取り上げてきた事例が典型ですが、プラットフォーム事業者もまたプレイヤーとして恣意的に一定の価値判断を元に記事を選別することもあり得ます。

 しかしながら、これらの恣意的な判断によって起きることはまた別の意味での差別や言論統制の仕組みに直結するのであって、仮にそういうのがあったとして「やめてよ」と言っても「じゃあどういうやり方が望ましいのですか」と言われると何とも言えないものがあります。片側の正義で済まされるものではなく、また左派媒体のような党派性の強い記事を選ばなかったならまた別の何かを選ぶことになるわけで、その根拠を含めた透明性をどう確保するのかというのは、優れて競争法的観点からきちんと整理をする必要のある分野であるとも言えます。

 また、これらの記事配信というのは必ずしもプラットフォーム事業者からすると利益の出る、儲かるものでは直接なく、コストセンターの扱いであり、目の前の数字をぶら下げられて追い立てられる営業部隊からすると、ぬくぬくとカネを使って記事を右から左に流すだけのニュース編集部はお荷物のように見える部分もあります。

ヤフーがニュース配信をやめる日

「スマートニュース」リストラ報道と報道記者喰えないよ問題

 いみじくもちょうど一年前にヤフーニュース編集部の微妙な問題について書いた記事が一定方面で大変ご反響を賜ったのも、そのような論点で考えたときのニュース配信というビジネスの終着点を感じていた方が多数おられたからなのだろうなあとは思います。

 それぐらい、ニュース配信における公平性とは何かを定義づけることもまたむつかしいわけですよ。正しいか正しくないかだけでなく、あるひとつの事件に対して、どのような角度でその問題を捉えるかは重要な課題であって、そこにGoogleやヤフーのようなニュース配信のプラットフォームがどのような透明性を持ってこれを利用者に流通せしめるかという蛇口については死活的なテーマになり得ますから、これを抜きにしてニュース配信を語るのはむつかしい。

 さらには、芸能とスポーツで多くのPVが稼げる状況に変わりがない反面、昨今ではコンテンツミル(しょうもないコンテンツを量産する仕組み)としてのコタツ記事量産サイトの問題がクローズアップされてくることになります。ちょっと前まではスポーツ紙がコタツ体制を作って大量のテレビ番組の視聴即記事化でしのぎを削っておりましたが、そこにさらに大量のサイトが参戦し、さらには人工知能や自動文字起こしツールまで流通するようになると、ほんの数秒の差でCMSからサイト記事がパブリッシュされて上位表示を狙う作戦迄横行するようになると世も末だなと思ったりもします。

 こんな言論・報道空間をネットで作ることが誰の役に立っているのか私には分かりませんが、しかしこれらはすべてプラットフォーム事業者との間の情報落差・非対称性を根拠とした優越的地位の問題があるからに他なりません。というのも、ヤフーニュースの場合は特に、ヤフーに掲載される記事ごとに広告が張り付けられ、1PVあたりの広告収入がおそらくはヤフー社内では把握されているはずです。

 しかしながら、ヤフー側は各媒体との記事配信契約のなかで、媒体によってかなりバラバラのPV単価が設定されています。例えば、前述大正義巨人軍は0.ン円という高額な単価が設定される一方、零細ゴミメディアの掲載ではその2桁は小さいんじゃないかという単価が提示されているはずです。この場合、ヤフーからすれば大手新聞社を除けばこれらの木っ端ウェブメディアは「ヤフーニュースに掲載させてやる」という立場であって、その掲載メディアの選定についてもヤフー独自の掲載基準を満たした媒体のみがその媒体テーマにそう記事のみ配信というところからスタートするという、実に下請法チックな界隈となっているのが特徴です。

 その点では、Googleのページランクを引き上げながらインデックスに入るところまでは一定の仕組みがはっきりしており、ニュースメディアとして認知してもらうための被リンクや媒体特性を把握させるまではルートが見えていることとはかなり対照的であるとも言えます。

 公取が「同じニュース媒体対策でも、ヤフーとGoogleでは取り組むべき観点がまったく異なる」と言いたそうなのもおそらくはその辺で、むしろ、ヤフーがこれらの記事配信において1PVあたりいくらの広告収入があり、それに対して媒体にいくらの掲載料を1PVあたり払う決定をしているのか、という透明性の問題が残ること。

 また、ヤフー配信された記事は、本家掲載の記事とは別にヤフーのURLで流通することも多く、これに対しても透明性の問題は出てくるでしょう。ヤフーのほうが圧倒的にページランクが高く固定読者がいる分、ページが強いのは分かりますが、これらが他プラットフォーム、特に検索エンジンでは本家サイトよりも上位にきたときは見ようによっては本家媒体の収入をヤフーが奪っているとも言えます。

 そして、これらのウェブ媒体は仮にヤフーニュース掲載に漕ぎ着けたとしても(その基準が公平で妥当なものかはかなり議論が分かれるかなとは思いますが)、その記事配信において1PVあたりの単価交渉にちゃんとヤフー側が応じているのかは、大変な論点になるのではないかと思っています。というか、担当営業から連絡があることはあっても、媒体側からヤフーに対して配信単価を上げて欲しいという交渉が成立することは非常に少ないのではないかとも思うんですよ。

 そのうえで、ヤフーに限らず、ポータルサイトでの人力編集部は特に、記事の掲載でトップなど選定をする業務は、朝日新聞や毎日新聞などの既存の新聞社OBが転職して担当していることがほとんどです。そういった媒体が、どのような記事を利用者に読ませたいかは一目瞭然であって、そこに党派性があるときは特に、どのような透明性を持たせるかはかなり重要なポイントになるのではないかと思います。

 「お前らの配信基準はめっちゃ偏っとるやんけ」と公取が言うかどうかは未知数ですが(たぶん言わない)、それだけ情報流通においてプラットフォーム事業者の影響力は大きく、その下でデジタルシフトが進む媒体の選抜が進むのはどこまでが仕方なく、どこからが優越的地位の濫用と言えるのかは非常にセンシティブな問題になっているとも言えます。

 Googleも微妙に塩対応なところがあるのでちゃんと公取とやってほしいと思う一方、ヤフーも宮坂学さんが東京都副都知事に転出し、また川邉健太郎さんもGYAO!の後始末と同時に一区切りとなったのを見ると、おそらくは、このあたりの問題を正面から受け止めて方針を定めてニュース配信の可能性を切り開くことのできるプレイヤーはなかなか見当たらないでのはないか、と感じます。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.396 公取に目をつけられたネットニュース界隈の話題に触れつつ、進化著しいAIとの付き合い方や経済安全保障を脅かす薬物渦問題などを考える回
2023年2月28日発行号 目次
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【0. 序文】ネットニュース界隈が公正取引委員会の槍玉に上がっていること
【1. インシデント1】AIとの付き合いかたをぼんやり考えてみる
【2. インシデント2】もうひとつの「経済安全保障」とフェンタニル禍
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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