現実をきちんと「見る」ことが難しい今こそお薦めしたい本

『ご依頼の件』星新一著

 

逆さまを見てはじめて真実に近づける

また、そうした眩暈をともなう交叉的な入れ子の運動イメージは、「見る」という行為がほんらい含んでいる「目の逆説」にも通じています。じつは、地動説=太陽中心説を証明したケプラーは、同時に、知覚理論における先駆者でもあって、彼は「私たちの眼球は外界のイメージを網膜において倒立したかたちで結像している」という重大な発見をしているんです。

つまり、私たちは普段、あるがままに外界を見ている訳ではなく、必ず交叉・倒立する像の交わりを通じて、何かを見ている、ということですね。しかも、そのことに私たち自身も気づいていない。これは応用して言えば、目に映る現実や行為は逆さまにひっくり返してみることで、より本来のありように近い状態を見通すことができる、ということでもあります。たとえば、心の奥底にある願望を見るためには、自己分析などいくら重ねてもあまり意味はないんです。むしろ、外側からやってきて自らと出会ってきたもの・出会うものを見ていくとき、自己の深部というのははじめて開示される訳で、それは逆もまた然りだと。

言い方を変えれば、私たちが何かを「見ている」と思う場合、まず「見させられている」要因を考えていくとき、真実に近くなり、逆に「見させられている」と思っている場合は、自分の何がそんなに「見たがっているのか」を考えてはじめて、目は虚妄を免れえるという訳です。そして、それらの交叉・倒立が繰り返されていく過程を通じて、私たちの“見通し”は何ものにも捕らわれない状態(中心点)へと近づいていき、それが“現実”を構築しなおしていく契機となっていくんですね。

本書には、他にも常識的で、ありふれた世界に安住している私たちの“現実”を小気味よくひっくり返してくれるショートショートが幾つも入っています。どうも最近、真実と虚妄の見分けがつかなくなってきたな、とか、自分が立脚すべき現実の中心ってどこだろう? と感じている方にはぜひお勧めします。

1 2 3 4

その他の記事

同じ場所にいつまでも止まってはいけない(高城剛)
私の出張装備2016-初夏-(西田宗千佳)
起業家は思想家でありアーティストである(家入一真)
池上彰とは何者なのか 「自分の意見を言わないジャーナリズム」というありかた(津田大介)
過去に区切りをつけ次のチャンスとピンチに備える(高城剛)
いつもは持たない望遠レンズで臨む世界遺産パンタナル大湿原(高城剛)
『趾(あしゆび)でカラダが変わる』中村考宏インタビュー(下村敦夫)
自民党、まさかの派閥解消からの安倍派処分の強硬手段で政治資金ネタを有耶無耶にしてしまう(やまもといちろう)
いまさらだが「川上量生さんはもう駄目なんじゃないか」という話(やまもといちろう)
頑張らなくても失敗しないダイエット(本田雅一)
ヘヤカツで本当に人生は変わるか?(夜間飛行編集部)
「国際競争力」のために、何かを切り捨ててよいのか(やまもといちろう)
「Googleマップ」劣化の背景を考える(西田宗千佳)
辻元清美女史とリベラルの復権その他で対談をしたんですが、話が噛み合いませんでした(やまもといちろう)
コロナで変わる観光客とビジネス客の流れ(高城剛)

ページのトップへ