切通理作
@risaku

切通理作メールマガジン「映画の友よ」連載寄稿・眼福女子の俳優論

第88回・米アカデミー賞受賞のゆくえは?

滋味溢れる人物orロッキー

続いて助演男優賞、ノミネーションはコチラ↓

・クリスチャン・ベール『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(3月4日公開)
・シルヴェスター・スタローン『クリード チャンプを継ぐ男』(公開中)
・トム・ハーディ『レヴェナント:蘇えりし者』(4月22日公開)
・マーク・ライランス『ブリッジ・オブ・スパイ』(公開中)
・マーク・ラファロ『スポットライト 世紀のスクープ』(4月15日公開)


☆受賞予想→マーク・ライランス『ブリッジ・オブ・スパイ』

予告編↓
https://youtu.be/D22lKWeQfQI

公式サイト↓

http://www.foxmovies-jp.com/bridgeofspy/

マーク・ライランス(以下マーク)は1960年生まれ、イギリス出身。これまでに2度のローレンス・オリヴィエ賞、3度のトニー賞を受賞しており、演劇界での評価は確固たるもの。主演を務めた歴史ドラマ『ウルフ・ホール』(2015)ではエミー賞ノミネートを果たしている。その他出演作は『ブーリン家の姉妹』(2008)、『もうひとりのシェイクスピア』(2011)、『ザ・ガンマン』(2015)など。

本作、私は鑑賞済み。アメリカとソ連が冷戦下にあった1950~1960年代、弁護士ジェームズ・ドノヴァン(トム・ハンクス)がソ連のスパイであるルドルフ・アベル(マーク)を弁護を引き受けたことをきっかけに、絡み合う各国の事情と利害に真正面から挑んだ先にある、諜報活動に身を捧げた者の行く末と在り方を見つめた視点が新鮮かつ程よい骨太さだった。

ルドルフは忠誠心を曲げず感情を乱すことなく、己の行く末さえもただただ静かに受け止める達観した佇まいは、観ていて好感さえ抱かせた。そんな彼に敵国の弁護士であるジェームズは信頼と尊敬を本能で察知するが、本来ならば馴れ合ってはならない相手だ。

しかしマークが憎むべき敵国のスパイを滋味溢れる人物へと昇華して演じているから、この異例の友情が下手な感動の押し売りにならず成立していた。

任務について日の浅い健康的な若いアメリカ人のスパイと、深く根を張る老木のように、その国の変遷を見つめてきたソ連側のスパイであるルドルフの物語が橋の上で交わるクライマックスでは、予断を許さぬ凍てつく寒さの中にもジェームズとルドルフの会話が明かりを灯しており、つかの間の後、その灯りはは国境を越えて決して消えることはないのだな、とささやかに示す演出に胸を打たれた。

実は本作を見るまでマークについてほとんど知らなかった。しかしスパイらしい俊敏な動きとは無縁のヨボヨボなおじ様ながら、ベテラン諜報員としての達観した佇まいを見せる彼が、各映画賞で助演男優賞を受賞しまくるのが超納得できる一作となっている。
 
 

★受賞希望→シルヴェスター・スタローン『クリード チャンプを継ぐ男』

予告編↓
https://youtu.be/H7Lyxv8vj0A

公式サイト↓
http://wwws.warnerbros.co.jp/creed/index.html

シルヴェスター・スタローン(以下スタローン)は1946年生まれのアメリカ出身。『ロッキー』(1976~)の大成功で一躍有名になり、その後『ロッキー』シリーズ続編や『ランボー』(1982)、『エクスペンダブルズ』(2010~)などシリーズものの代表作を持つベテランアクションスター。その他出演作は『クリフハンガー』(1993)、『ジャッジ・ドレッド』(1995)など。

こちらも私は鑑賞済み。スタローン主演のボクシング映画『ロッキー』のその後の物語となる本作は、ロッキーの現役時代のライバルで親友でもあるアポロ・クリードの息子アドニス(マイケル・B・ジョーダン)と、彼のトレーナーとなったロッキーによる新たなボクシング映画となっている。

オープニングとエンドロールで大写しになる「クリード」という名前が本編を見る前と後だとだいぶ印象が違うのだが、そこに込められたものを知ることによって、作品全体の質の高さを実感する事が出来た。

その名前を継ぐべく主人公アドニスが向き合う重圧、恐れ、誇りが映画が進むにつれジンワリと作品全体、そして観客に浸透していくので、ラストに改めてその名前を目にした瞬間にこみ上げてくる感情を抑えることが出来なかった。

現代の空気をまとったシンデレラストーリーとして、しかと胸に焼きつく作品である。

スタローン演じるロッキーは、アドニスを鍛え上げ根気よく指導する姿に長年の経験を積んだ者の風格をドッシリと漂わせ、しかし体にだいぶガタがきている己と正面から向き合う不安もあますところなく見せている。

また現代のツールに疎くオタオタする可愛い一面を覗かせるなど、まさに今の年齢だから表現できたスタローン自身の分身であるかのようなロッキー像を本作で更新しており、1976年から続くある男の生き様をごまかすことなく演じている。

前半戦はマークがほぼ総なめ状態で助演男優賞を受賞していたが、後半戦ではスタローンが徐々に巻き返してきている。総数で見ると受賞数は劣るものの、実質この2人のどちらが受賞してもおかしくないほどの接戦が繰り広げられている。

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切通理作
1964年東京都生まれ。文化批評。編集者を経て1993年『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』で著作デビュー。批評集として『お前がセカイを殺したいなら』『ある朝、セカイは死んでいた』『情緒論~セカイをそのまま見るということ』で映画、コミック、音楽、文学、社会問題とジャンルをクロスオーバーした<セカイ>三部作を成す。『宮崎駿の<世界>』でサントリー学芸賞受賞。続いて『山田洋次の〈世界〉 幻風景を追って』を刊行。「キネマ旬報」「映画秘宝」「映画芸術」等に映画・テレビドラマ評や映画人への取材記事、「文学界」「群像」等に文芸批評を執筆。「朝日新聞」「毎日新聞」「日本経済新聞」「産経新聞」「週刊朝日」「週刊文春」「中央公論」などで時評・書評・コラムを執筆。特撮・アニメについての執筆も多く「東映ヒーローMAX」「ハイパーホビー」「特撮ニュータイプ」等で執筆。『地球はウルトラマンの星』『特撮黙示録』『ぼくの命を救ってくれなかったエヴァへ』等の著書・編著もある。

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