岩崎夏海
@huckleberry2008

岩崎夏海のメールマガジン「ハックルベリーに会いに行く」より

アメリカ大統領選はトランプが当選するのではないだろうか

※岩崎夏海のメルマガ「ハックルベリーに会いに行く」より

星条旗

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アメリカのターニングポイントは
ブッシュが当選した2000年にあった

共和党のアメリカ大統領選候補者指名争いで、トランプが優位に立っている。3月1日のスーパーチューズデーで、その勢いを決定づけるとの予測もある。

ぼくは、トランプが大統領になるのではないかと予想している。それは、今の時代に全く相応しい大統領だと思うからだ。以下に、その理由を記す。

アメリカ大統領というのは、2000年が一つのターニングポイントだった。ここでブッシュが僅差で当選した。すると、ニューヨークで同時多発テロがあり、さらにイラク戦争などもあって、ブッシュは史上最悪の大統領といわれたりした。それでいながら、ちゃっかり8年の最大任期を全うした。

ブッシュを悪く言う人は多いが、ぼくは昔から彼が好きだ。というのは、アメリカ大統領というのは、政治家というよりも象徴のような役割が強いので、能力よりもメンタルタフネスが求められるからだ。一人の人間にとっては重すぎるほど責任を担っても平気でいられる、精神の剛胆さが必要なのである。

そういう役割を担うには、頭が良すぎると都合が悪い。いろいろ考えすぎて、ドツボにはまってしまうからだ。その点、ブッシュというのは適役だった。あまり深くものを考えないので、どんな厄災が起きても慌てふためくことがない。同時多発テロのときもイラク戦争のときも、大統領という役割を淡々と演じきった。そう、大統領というのは役者なのだ。だから、指導することよりも演技することの方が重要で、その意味でブッシュは文句のつけようがなかったと思うのである。

その後を受けたのがオバマ大統領だった。
 
 

オバマ政権を経てアメリカ国民たちは
どのような結論を得たのか

オバマは、初の黒人大統領ということで話題になったが、それ以上にやっぱり「切れ者」という印象が強い政治家だった。そして、そのオバマも8年の最大任期を全うしようとしているが、振り返ってみるに、彼は一体何をしたのか? そう聞かれると、実は何もしてないというのがぼくの印象だ。彼が大統領になることによって、世の中が変わったかというとそんなことはなく、これまでの流れがゆるやかに進行しただけのように見える。ただ惰性で動いていただけで、オバマはそれを咎めも、また押し進めもしなかった。つまり、いてもいなくても同じだったのではないか。

ぼくがそういう話をしたら、ある人から「何もしていないように見える人こそ、実は立派な政治家ではないでしょうか。彼も実は、もしかしたら起きていたかもしれない大きな厄災を未然に食い止めていた可能性があります」と言われた。もちろん、そういう可能性もあるだろう。しかしそれでいうなら、ブッシュも大きな厄災を未然に防いでいた可能性がある。彼の治世中も、同時多発テロやイラク戦争こそあったものの、それ以前の60年代や70年代と比べると、必ずしも世の中が悪くなったとは言い切れないからだ。

ぼくが言いたいのは、ブッシュとオバマを比較したとき、「オバマの方が断然良かった」と現時点では言いにくい——ということである。これほどタイプが異なるのに、やっていることはほとんど変わりないのだ。

ところで、オバマというのはインテリの割りには精神の剛胆さがある。彼は非常にタフだ。

それは、彼の表情に見て取れる。彼はすごい鉄仮面なのだ。「鉄仮面」というのは、心理状態を顔に出さない——ということである。鉄のような意思力でもって、本心を隠し続けるメンタルタフネスがある。

オバマの有名な動画がある。これを見れば、オバマの顔というものがいかに本心を反映していないかがよく分かる。

Barack Obama's amazingly consistent smile
https://www.youtube.com/watch?v=YsQ5wxZI1U4

アメリカは、ブッシュとオバマという、出自や性質は全く違うが、そのメンタルタフネスと何もしなかったという結果において、非常に似通った二人の大統領を連続して経験した。そのことから、あることを感じたのではないだろうか。

それは、メンタルがタフであれば、誰が大統領をやっても良いということ。逆にいえば、誰が大統領になっても同じということだ。ただ、何もしないのはつまらない。だから、メンタルのタフさは持ちながら、ブッシュやオバマとは違う全く新しいタイプの、何か新しいことをしてくれそうな人がいい——そう考えたのではないだろうか。

これには、政治家の力が相対的に弱まって、逆に企業の力が強くなってきた現代の世相が反映されているとも考える。人々は、例えばGoogleやアップルやAmazonのCEOにトランプが就いたら「とんでもない」と思うだろうが、「アメリカ大統領くらいだったらいいのではないか」という意識が芽生え始めているのだ。人々は、アメリカ大統領の社会的地位が以前よりずっと下がっていることを敏感に感じているのである。

そういう時代に最適な大統領こそ、トランプだと思う。アメリカ国民もそれを分かっているから、大統領にはトランプが当選するのではないだろうか。
 
 
 

岩崎夏海メールマガジン「ハックルベリーに会いに行く」

35『毎朝6時、スマホに2000字の「未来予測」が届きます。』 このメルマガは、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(通称『もしドラ』)作者の岩崎夏海が、長年コンテンツ業界で仕事をする中で培った「価値の読み解き方」を駆使し、混沌とした現代をどうとらえればいいのか?――また未来はどうなるのか?――を書き綴っていく社会評論コラムです。

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岩崎夏海
1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。

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