名越康文
@nakoshiyasufumi

新刊『驚く力』著者・名越康文インタビュー

驚きとは、システムのほころびを愛でること

社会のシステム化が「うつ」を呼ぶ

共感ですらシステム化されていく社会の中で、「驚く力」は、本当の意味での「共感」を呼び覚ますスイッチになりうると僕は考えています。

そこに取り組まない限り、僕らの社会全体を取り巻くある種の「うつ」状態から抜け出すことは難しいと僕は思う。というのも、「うつ」の根底には、自分の人生が「システム」に支配されているという思い込みがあるからです。

システムは、あらゆることは予測可能であり、予定調和であることを求めます。それは確かに安全・安心な世界かもしれませんが、社会がそちらに向かえば向かうほど、僕らは抑うつ状態から抜け出しにくくなっていきます。

システムがよくできていればできているほど、うつは強くなる。そういう意味では、3.11のような天災によってシステムが一時的に崩壊したときは、僕らが驚く力を取り戻し、うつ状態から抜け出すという点では「チャンス」でした。

しかし実際には、少なくとも社会全体としては、より強固なシステム、より間違いない予定調和を求める方向に進み、さらに社会の抑うつの度合いは増しているように思います。

おそらく、東北で実際に被災した方々の中には、そういう「システムをより強化する方向性」に疑問を抱き、違う方向に舵を切ろうとした人も少なからずいたはずです。しかし、多くの日本人は、結果的にはシステムを強化する方向を選んだ。

それくらい僕たちは、システム化されることを、自ら望んでしまう傾向を持っている。その一方で、世界を完全にシステム化することは不可能であることもまた、どこかで気づいてもいる。

1 2 3 4 5
名越康文
1960年、奈良県生まれ。精神科医。相愛大学、高野山大学、龍谷大学客員教授。 専門は思春期精神医学、精神療法。近畿大学医学部卒業後、大阪府立中宮病院(現:現:大阪精神医療センター)にて、精神科救急病棟の設立、責任者を経て、1999年に同病院を退職。引き続き臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。 著書に『「鬼滅の刃」が教えてくれた 傷ついたまま生きるためのヒント』(宝島社)、『SOLOTIME~ひとりぼっちこそが最強の生存戦略である』(夜間飛行)『【新版】自分を支える心の技法』(小学館新書)『驚く力』(夜間飛行)ほか多数。 「THE BIRDIC BAND」として音楽活動にも精力的に活動中。YouTubeチャンネル「名越康文シークレットトークYouTube分室」も好評。チャンネル登録12万人。https://www.youtube.com/c/nakoshiyasufumiTVsecrettalk 夜間飛行より、通信講座「名越式性格分類ゼミ(通信講座版)」配信中。 名越康文公式サイト「精神科医・名越康文の研究室」 http://nakoshiyasufumi.net/

その他の記事

太古から変わらぬ人間の身体と変わりゆく環境の間を考える(高城剛)
歩き方の上手い下手が人生を変える(岩崎夏海)
バーゲンプライスが正価に戻りその真価が問われる沖縄(高城剛)
高橋伴明、映画と性を語る ~『赤い玉、』公開記念ロングインタビュー(切通理作)
「2分の1成人式」の是非を考える(小寺信良)
ハードウェア事業を見据えたアップルのしたたかなプラットフォーム戦略(本田雅一)
総務省家計調査がやってきた!(小寺信良)
人生を変えるゲームの話 第2回<一流の戦い方>(山中教子)
株式会社ピースオブケイクのオフィスにお邪魔しました!(岩崎夏海)
スマートシティ実現と既得権益維持は両立するか(高城剛)
終わらない「レオパレス騒動」の着地点はどこにあるのか(やまもといちろう)
週刊金融日記 第271号 <美術館での素敵な出会い 傾向と対策 他>(藤沢数希)
効かないコロナ特効薬・塩野義ゾコーバを巡る醜聞と闇(やまもといちろう)
受験勉強が役に立ったという話(岩崎夏海)
津田大介×石田衣良 対談<前編>:メルマガは「アナログ」なメディアである(津田大介)
名越康文のメールマガジン
「生きるための対話(dialogue)」

[料金(税込)] 550円(税込)/ 月
[発行周期] 月2回発行(第1,第3月曜日配信予定)

ページのトップへ