『静かなる革命のためのブループリント』発売記念インタビュー

宇野常寛が考える”社会と個人”を繋ぐ新しい回路とは

 

――自分自身の内的な変化をストレートに読者にぶつけた本だった、と。結果はどうでしたか?

 

結局、P8は既存の論壇には全くと言っていいくらいに取り上げられていない。マスメディアでの反響という点では、7号以前のほうが遥かに大きいくらいじゃないかな。 でも、僕自身の手応えは非常に強いものがあって、実際にP8はそれまでのPLANETSの倍以上も売れて――現在もなお売れ続けている。僕としても、本当に奇妙な体験としか言いようがない。 ちょうど発売の1ヶ月後に、教育テレビで僕のドキュメントがあって、その瞬間Amazonでははねたんだけど、あれから1年経ってみるとその後じわじわ売れた方が大きいんだよね。2ヶ月に一回くらいネットのどこかで話題になってがっと売れる、というのを繰り返している。

何よりも、お客さんが全く違っているんですよ。これまでの僕の読者は、サブカルチャーや批評が好きな文系学生が中心だった。ところが、この本は普段は批評や思想には興味がない、技術者やプランナーのような人たちも多く読んでくれているみたいなんだよね。実際、この反響で新しい人脈も生まれていて、具体的には、衣食住に関わるサービスや通信業界、あるいは都市建設の分野で商業地開発などをしているビジネスマンのような、世界の人たちとの交流が増えている。 彼らの世界に足を踏み入れてみると、そこには全く次元の違う世界が広がっていた。

「若い世代がネットで育んだ文化が、ネットジャーナリズムを通じて政治に反映していく」というような、震災前後に膨らんだ「動員の革命」の夢――あの勝手に膨らんで、そして勝手に破裂してしまった夢とは違うビジョンがあったんだよ。彼らの活動は、具体的なサービスや商品を作ることで、民間事業を通じて世界を変えていくことができるのだという強烈なリアリティに支えられていた。

しかも、実はそれって、震災とは関係なしにずっと強くなり続けていた世界観でもあるんだよね。その活動と並走する言論が求められていた状況で、まさにP8の文化批評の言葉が刺さったのだと、彼らと一緒に活動する中で気づいていったように思う。

1 2 3 4 5

その他の記事

なぜNTTドコモは「dポイント」への移行を急ぐのか(西田宗千佳)
ズルトラ難民が辿り着く先、HUAWEI P8max(小寺信良)
学術系の話で出鱈目が出回りやすい理由(やまもといちろう)
安倍晋三さんの総理辞任と国難級のあれこれ(やまもといちろう)
ロドリゲス島で出会った希少な「フルーツコウモリ」!(川端裕人)
ファーウェイ問題から想像する強者にとっての心地よさ(本田雅一)
無風と分裂の横浜市長選2017、中央が押し付ける「政策」と市民が示す「民意」(やまもといちろう)
津田大介×石田衣良 対談<前編>:メルマガは「アナログ」なメディアである(津田大介)
ソニー平井CEOの引き際。なぜソニーは復活できたのか(本田雅一)
【告知】1月28日JILISコロキウム『文化資産と生成AI、クレカによる経済検閲問題』のお誘い(やまもといちろう)
「HiDPIで仕事」の悦楽(西田宗千佳)
美食ブームから連想する人間の生態系の急速な変化(高城剛)
怒りを動機にした分析は必ず失敗する(名越康文)
なくさないとわからないことがある(天野ひろゆき)
健康的な耳を取り戻す(高城剛)

ページのトップへ