「ブラック企業」は違法企業ではありません
城:そういう意味で「ブラック企業」という言葉がひとり歩きするのも問題だと思うんです。まず、「ブラック企業」としてメディアで報じられている某有名企業は、違法企業ではありません。その証拠に摘発されませんよね。彼らは日本の労働法の枠内でやれることをやっているだけです。
メディアの観点から考えても、この「ブラック企業」というネーミングはすごく使いやすいんですね。「違法企業」と名指ししているわけではないので企業から訴えられることもない一方で、限りなく「黒い」イメージを与えられる。かなりマーケティングセンスのある人が作った言葉だと思います。
ただ、まじめに労働問題を考えるのであれば、こうしたネーミングをつけて騒いでも、特定の企業には多少ダメージを与えることになるかもしれませんが、全体としては何の解決にもならないと思います。
「どうして日本の労働法はこんなにザルなのか」「なぜ日本の労働法には労働時間の上限が定められていないのか」などをしっかり考えて、労働法自体にメスを入れていかないと意味がない。「和民」が悪いと言うのであれば、「庄屋」もスルーしてはいけませんよね。「和民」だけが問題にされるのは、ただトップが目立っているだけだろう(笑)と。
東南アジアには、日本で問題になっている「ブラック企業」以下の労働条件の仕事などいくらでもあります。彼らに日本企業からの仕事が流れていて、非常にありがたがられている現実がある。一方、海外に発注しにくい一部のサービス業が日本に残っていて、そこだけがめちゃくちゃに叩かれている。この構図には違和感を覚えますね。
竹田:欧米の状況を紹介しておくと、やはり欧米にも日本の「ブラック企業」という言葉では表しきれない、中間層以下の人たちや不法移民が人権などまったく考慮されずに働いているようなひどい雇用環境がいくらでもあります。こうした雇用状況は、解雇規制の緩和と移民の受け入れが進めば、ある程度は出てくるのは避けられません。
ドイツでは、解雇規制を緩和したシュレーダー政権はかなり批判もされましたが、今、ヨーロッパで経済が元気なのはドイツだけです。だから、雇用の流動化については、ある程度は評価されている。一方、「トルコから来る移民についてどう考えるか」という話になると、意見がわかれるんですね。はっきり言ってしまえば、この話はブルーカラーの人たちが置かれている環境を、どういう形で受容するかに尽きると思うんです。
今のドイツで言えば、移民の必要性、歴史的経緯、それから今の経済に対する貢献度合いなどを複合的に考えた上で、中流以上の国民には「一時的には仕方がないもの」として捉えられている。流動化や移民受け入れのおかげで、厳しい雇用環境を突き付けられる人が出るのであれば、それは分配のところで調整すればいいというコンセンサスが、ドイツではある程度取れているから、何とかバランスが取れているわけです。
でも、日本はそういう議論をまるでしてこなかったので、「ブラック企業」というかたちでスポットライトを浴びているんだと思います。もし、「ブラック企業」という名称で注目されなければ、違った形で問題になっていたかもしれない。例えば、研修で日本に来た中国の人たちが大暴れしたかもしれない。
城:もし日本が10年前くらいから移民を受け入れていれば、今の「ブラック企業」問題は、移民問題として出てきたはずですよね。
竹田:そうですね。そしてこの移民問題は、グローバル化の話でもありますけど、少子化対策の話でもある。先ほど「雇用枠」の話でも出ましたが、現実に今の日本は「人手不足」の業種がたくさんあります。しかし、子どもの数はどんどん減っていく。こうした問題を乗り越えるために何をしなくてはならないのかも考えなければならない時代になっているということだと思います。
(編集:夜間飛行編集部 写真:安部俊太郎)
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